2022年卒業見込みの大学生の就職活動が間もなく本格化する。人気企業の選考試験の過去データや通過率の高いエントリーシートの書き方などに関して様々な情報がインターネット上で飛び交う中、今月8日、Twitter上に投稿された1つのツイートが注目を集めていた。
「愛読書はなにか」はNG
「就活の時、本読むの好きですって言ったら『具体的には何冊くらい今までに読みましたか?』って聞かれて嫌やったなー。遅読家やし、読書を数値にして何が嬉しいんや。どうせ"そういう本"ばっかり読んでるんやろな」(原文ママ、以下同)
この投稿に対し、同様の質問をされて困惑した経験談が多数寄せられたほか、採用側の質問の意図を推測し、「冊数を知るための質問ではない」「そう聞かれた時、柔軟な考え方ができるかを聞いている」などという投稿も散見された。また、以下のような指摘もあった。
「面接には公正採用の観点から聞いてはいけない事があり、愛読書についてのなどの質問は禁止になっています。面接官の方の立場として、それらの質問を回避しつつ、あなたが趣味にどれだけ熱意を持っているかを冊数を通じて伺おうとしたと思います」
趣味への熱意がどれだけ高いかということと、自社が募集している仕事の適正に何か関係はあるのだろうか。毎日、徹夜で読書して寝不足で会社に来られても困るだろうし、逆に趣味がなくて「仕事が趣味だ」などと職場で空回りされるのも考えものだろう。
「容姿」はもちろん「購読している新聞・雑誌」もアウト
では、法律ではこうした採用面接の質問はどのように規定されているのか。職業安定法第5条の4に関する厚生労働大臣指針「平成11年厚生労働省告示第141号」には以下のような規定があった。
「個人情報の収集、保管及び使用
(1) 職業紹介事業者等(労働者の募集を行う者を含む)は、その業務の目的の範囲内で求職者等の個人情報(以下単に「個人情報」という)を収集することとし、次に掲げる個人情報を収集してはならないこと。ただし、特別な職業上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合はこの限りでないこと。
イ 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
ロ 思想及び信条
ハ 労働組合への加入状況
(イからハについては、具体的には、例えば次に掲げる事項等が該当します)
イ関係
① 家族の職業、収入、本人の資産等の情報(税金、社会保険の取扱い等労務管理を適切に実施するために必要なものを除く)
② 容姿、スリーサイズ等差別的評価に繋がる情報
ロ関係
人生観、生活信条、支持政党、購読新聞・雑誌、愛読書
ハ関係
労働運動、学生運動、消費者運動その他社会運動に関する情報」
ここで気になるのは冒頭の「特別な職業上の必要性が存在すること、その他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合はこの限りでないこと」という“但し書き”の部分だろう。例えば新聞社、出版社、テレビ局の採用面接では、業務上の必要性を述べた上で、「どんな本を読むのか」「どの新聞、雑誌を読んでいるのか」を問うことが多い。入社3年目の全国紙記者は次のように話す。
「私の時も聞かれましたよ。実際、仕事をしてみて思うのは『どの本や新聞を読み、どの番組を見ているのか』より『どんなふうに情報収集をし、社会のトレンドをつかんでいるのか』が重要なんじゃないかと思います。似ているようですけど全然、違いますよね」
労働局「特別な事情に該当する例はほぼない」
ではアウトとセーフの線引きはどこにあるのか。厚生労働省東京労働局職業安定部職業対策課の担当者は次のように説明する。
「法律の条文上は(指針に反する質問が許される)『特別な事情』に関して記載されていますが、それに該当する理由を説明できる例はほぼないと思います。基本的な考えとして、その質問がなんのために必要なのか、採用側の採用選考において、求職者の適正と能力をはかる上で本当に必要な質問なのかが重要です。
指針に抵触する質問で、『愛読書』『購読新聞』のほか、よくあるのは『尊敬する人物』です。『座右の銘』『好きな偉人』なども不適切質問にあたります。本人がどのような人生観や趣向をもっていようが、採用選考には関係ないからです。
また、よく新聞社さんで購読新聞を聞く事例がありますが、それを聞く必要があるのか理由付けがないケースがほとんどです。そんな質問をされたら、求職者は選考を受ける新聞社の新聞を購読していないと不採用になるのではないかと不安に思うのは当然です。仮にそれが理由で不採用になった際は違法性を問われる場合があります」
リクルートの元キャリアアドバイザーは次のように話す。
「採用面接の質問というのは、求職者のスキルやポテンシャル、コミュニケーション能力を測るためのものです。読書などの趣味が仕事に生されるケースもありますが、基本的に採用選考とは分けて考えるべきでしょう。20年くらい前は、面接官が自分の主観にもとづいて評価する“人柄採用”が主流でした。求職者の人物像を把握しなくてはいけないので、『どんな本を読んでいるのか』『人生観』『家族』などに関する質問が多く用いられました。昭和の高度経済成長期にあった『企業は大きな家族』というイメージも大きかったのだと思います。
今はどこの企業でも厚労省や自治体のガイドブックに沿って、不適切質問をしないようマニュアルを作っていますが、どうしても自分流の昔のやり方から抜け出せない中高年以上の管理職はいるものです。パワハラ・セクハラ面接は少しずつ減っていますが、こういう細やかな部分はまだまだ徹底されていないというが実情ではないでしょうか。
どれほど人事担当社員が気を付けていても役員がポロッと不適切質問をして、大学生に労働局や労基署に駆け込まれる事例はたくさんあります。採用選考とは直接関係がありませんが、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森喜朗前会長が“女性発言”で大炎上していましたが、ああしたことはどこの企業にとっても他人事ありません」
(文=編集部)