景気が持ち直し需要が上向く局面では、多くの企業の業績は拡大する。それが自然だ。反対に、景気が減速し、需要が低迷した時こそ、経営戦略の真価が問われる。米国の景気は徐々にピークに近づいていると考えられる。また、中国経済の先行きにも不透明な部分がある。今後も長期的に建機需要が増加トレンドをたどることは想定しづらい。新しい収益源を確保したり、付加価値の高い商品を創出できるかが競争を左右するだろう。
新しいビジネスモデルに向けた取り組み
そのためにコマツが重視してきたのが、ICT事業だ。コマツは、情報通信技術を活用して、生産性を高めること、従来にはなかったビジネスを生み出すことに取り組んでいる。実際に同社の取り組みが実社会に広がると、建機メーカーへのイメージが大きく変わるだろう。
1998年にコマツは盗難防止などを目的としたGPSシステム「KOMTRAX(コムトラックス)」をオプションで装備し始めた。2001年にはGPSを活用して建機の稼働状況などに関するデータを収集できることから、コムトラックスは標準装備化された。これはモノがインターネットとつながるIoT(モノのインターネット化)の先駆け的な取り組みだ。
その効果として、コストの削減が期待される。建機の稼働状況をリアルタイムで把握することは、盗難の防止だけでなく、適切な保守・点検のタイミングの把握など、経営効率の向上につながる。過剰在庫の削減などはその一例だ。その取り組みを強化することで、企業は従来以上にコストを削減し、経営資源の効率的な配分を通した付加価値の創出を行うことができるようになるだろう。利益水準の向上、その安定性の引き上げだけでなく、株主への価値還元を強化するためにも重要だ。
また、省人化など新しい事業の開拓にもICTは欠かせない。建設や鉱山開発の現場は、労働力確保の問題や従業員の安全性確保の点から、省人化ニーズの高い分野といえる。少子高齢化が進む地域であれば、なおさらだろう。
それに加えてコマツは建設現場の環境、機器、資材、労働力などをICTによってコネクトし、管理するためのソリューションビジネス(スマートコンストラクション)にも取り組んでいる。将来的には、建機の製造・メンテナンスに加え、建設や進捗管理などに関するコンサルティングサービスなどが同社の収益を支える可能性もある。ICTが同社の中国ビジネスや、競争優位性にどう影響するか興味深い。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)