ドン・キホーテが3月5日から99円均一で販売する売り場を導入した。どうやらドンキは100円均一ショップ市場に狙いを定めたようだ。
ドンキの99円均一商品は、「Re:LIKE!(リライク)」と呼ばれる、女性クリエイターと開発商品をマッチングするプロジェクトから誕生した。女性クリエイターがデザインしたピンクと黒を基調とする紙皿や紙コップ、フリーザーバッグなど26種類をそろえている。パーティー需要のほか、これからの季節は花見などの行楽需要も見込めそうだ。
実際に店舗で見てみたが、インスタグラムなどSNS映えするようなデザイン性がある商品群だった。99円という価格が割安に感じられる。100円ショップを利用する女性や、SNSを日常的に利用するアクティブな女性を中心に、一定の需要があるのではないか。
とはいえ、今回投入した99円均一商品は、今のところ取り扱いが26種類と品ぞろえが限定的で、またデザイン的に男性の需要はほとんど見込みにくいこともあり、当面は大きな売り上げは望めないだろう。ただ、中長期的には大きく化ける可能性を秘めている。
これらは、試験販売の意味合いが強いと考えられる。そのため、現状の展開規模は大きくないが、売れ行きが好調であれば当然、拡大していくことになるだろう。
圧倒的な品揃えのダイソー
100円ショップを展開する企業は、どこも業績が好調だ。その点に鑑みて、ドンキは100円ショップ市場に狙いを定めている可能性がある。
100円ショップ「ダイソー」を運営する業界最大手の大創産業の業績は、特に好調だ。同社の発表によると、2017年3月期の売上高は前年比6.3%増の約4200億円と、大きく増加している。17年10月時点で国内に約3150店、海外では26の国・地域に約1900店を展開している。
ダイソーの1号店がオープンしたのは1991年4月。消費者が安心して買い物できる「均一価格」にしたことと、100円という低価格ながらも「安かろう、悪かろう」と思われないレベルの品質の商品をそろえたこと、圧倒的な品ぞろえを実現したことで人気を博すようになった。
ダイソーの強みは、なんといっても3000店を超える店舗網にある。店舗数が多ければ多いほど仕入れ量が多くなり、それだけバイイングパワーが高まる。そうすると、高品質の商品を安く仕入れて販売することができる。
また、多くのメーカーと取引できるようになるため、品ぞろえが豊富になる。ダイソーで扱う商品アイテム数は約7万点にも上り、月に約700種類の新商品が生まれているほどだ。そのため、消費者は宝探しをするかのように買い物を楽しむことができる。
女性人気が高いセリアとキャンドゥ
100円ショップ「セリア」を現在全国に約1500店を展開しているセリアも好調だ。17年3月期の売上高は、前年比11.0%増の1453億円。売上高と利益はともに過去最高を更新している。
100円ショップというと、「薄利多売」のイメージがあるかもしれないが、セリアはそうではない。17年3月期の売上高営業利益率は10.4%で、日用品小売企業のなかでは圧倒的な高さを誇る。
セリアは、100円ショップとは思えないほどカラフルでおしゃれな雑貨を多くそろえ、特に女性に支持されている。若い女性を中心に、定期的に店舗を回って買った商品をSNSなどで情報発信する「セリパト」(セリア・パトロールの略)という現象を生み出したほどだ。
こうしたことから、ドンキが今回投入した99円均一の商品は、デザインとターゲットの面において、ダイソーよりはセリアに近いといえるだろう。
100円ショップ「キャンドゥ」を全国に約1000店を展開するキャンドゥも堅調だ。17年11月期の売上高は前年比1.2%増の688億円と、5期連続で増収を果たしている。
キャンドゥは老若男女、幅広い層をターゲットとしてきたが、近年はデザイン性のあるおしゃれな商品を増やすなどして、若い女性の取り込みに力を入れている。15年7月には女性に人気のSNS「インスタグラム」の公式アカウントの運用を開始した。こういった施策が功を奏し、16年11月期において20代女性の売上高が前年から7.3%増加し、30代女性は6.6%増えたという。女性の取り込みが進んでいる状況だ。
100円ショップ業界の大手企業について考察してきたが、100円ショップ市場は巨大で、しかも成長性が高いことがわかる。また、男性よりは女性との親和性が高い市場だ。そうしたことからドンキは100円ショップ市場へ参入するにあたり、まずは女性向けの商品だけで始めたと考えられる。
100円ショップとのガチンコ勝負に突入か
99円均一という価格設定もドンキらしい。100円均一の店よりも、わずかではあるが安いことをアピールしているようだ。
ドンキは99円均一売り場を導入し、100円ショップを利用する客を取り込むことを狙っていると思われる。いずれは売り場を拡大するなどして、ダイソーなど100円ショップ企業との全面戦争に打って出ることも十分考えられる。というのも、ドンキはこれまで既存の小売業から利用客を奪うことで成長してきた側面があるためだ。
ドンキはメーカーから「季節外れ」「流行遅れ」となった化粧品や日用品などを「スポット商品」として安く仕入れ、圧倒的な安値で販売し、競合のドラッグストアなどから利用客を奪ってきた。
近年は野菜や果物、精肉といった生鮮食品や弁当・総菜を扱う店舗を増やし、食品スーパーから利用客を奪いにかかっている。
最近では「Windows10」を搭載したノートパソコンや4K対応の大型液晶テレビをプライベートブランドとして開発、安値で販売し、家電量販店から利用客を奪い始めている。
そして今回、ドンキは満を持して99円均一の売り場を本格導入した。興味深いのは、ダイソーが入居している物件でも店舗を展開していることだ。今のところ呉越同舟の状態ながらも共存しているが、いずれガチンコ勝負にならないとも限らない。
いずれにしても、100円ショップ企業にとっては心中穏やかではいられない状況ではないだろうか。今後の展開に注目したいところだ。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)