1日、富士フイルムホールディングス(HD)による買収に大筋合意していた米国ゼロックス(以下、ゼロックス)は急転直下、この買収案に反対しているカール・アイカーン氏とダーウィン・ディーソン氏を筆頭とする「物言う株主」との和解を発表した。そのなかでゼロックスは、大株主が提案した6人の取締役候補を受け入れ、ジェフ・ジェイコブソンCEO(最高経営責任者)ら現在の取締役7人が辞任するとしていた。
しかし、この和解は条件を満たさず3日に失効し、現経営陣が残留となり、今度はゼロックスが4日、ニューヨーク上級裁判所が出した買収手続きの一時差し止め命令を不服として上訴する措置を講じ、同日に富士フイルムHDも判決に不服として上訴した。やはり、話はこれで落ち着くことなく、13日にゼロックスは再び掌を返してアイカーン氏と和解し、今回の買収合意を解消すると発表した。これに伴い、ジェイコブソンCEOなど6人の取締役が退任し、アイカーン氏などの反対派が推薦する5人が新取締役、ジョン・ビセンティンが新CEOに就任すると発表した。これを受けて富士フイルムHDは法的手段に出ることをほのめかしている。
1月31日に始まった一連の買収劇は、発表以来、アイカーン氏の買収反対、加えてゼロックスの大株主であるディーソン氏による買収差し止め提訴でブレーキがかかり、先月27 日には、米ニューヨーク州上級裁判所からゼロックスに対して今回の買収手続きの一時差し止め処分が命じられ、雲行きが怪しくなっていた。
今回上訴したゼロックスは、株主が満足する買収条件に変更するか、30日以内に命令取り消しを勝ち取るかのどちらかであったが、司法の判断を仰ぐ前に買収合意の白紙撤回という強硬手段に出た。ゼロックスの経営陣は盤石ではないため、6月中旬に予定されているゼロックスの株主総会までに再び新たな動きが起こる可能性もあり、いずれにしても、この2週間での迷走劇は、富士フイルムHDの古森重隆会長兼CEOにとっては想定外の出来事だろう。
精緻だったはずの買収スキーム
今回の買収劇を、その主導者である古森会長を軸に戦略的な文脈で再度整理してみよう。2012年に破産した写真フイルムの巨人コダックと比較されることの多い富士フイルムだが、主力の銀塩フイルム事業の売上が2000年から毎年20%以上のペースで縮小し、苦境に陥った。その後、脱フィルム事業という大胆な事業ポートフォリオ転換戦略で脚光を浴び、08年3月期にはV字回復を遂げた。05年度から06年度にかけて、写真フイルム事業で5000人規模のリストラを行ったことが功を奏した。リストラはその後の09年度と10年度にかけて、間接部門や開発部門を中心に5000人規模で行われたが、その経費とリーマンショックの影響で、09年度は営業赤字となる。