名経営者の誉れ高い古森会長は、写真フイルム事業売上がピークの2000年に富士写真フイルム(現富士フイルム)社長に就任。03年にCEO、06年の持ち株会社化に伴い富士フイルムHD社長兼CEO、12年に会長兼CEOに就任し現在に至る。20年に迫る超長期政権である。富士フイルムは創業時から社長在任が平均10年と長期政権であるが、古森政権は突出して長い。
その古森氏が次の一手として打ったのが、ゼロックス買収である。今年1月31日に発表されて以来、日本企業の大型海外M&A(合併・買収)、それも精緻でなかなか凝った買収スキームでもあり、マスコミで大きく取り上げられてきた。
具体的には、現在富士フイルムHDが75%を保有している富士ゼロックスの株式を、富士ゼロックスが借入金6700億円を元手に買い上げ、富士ゼロックスはゼロックスの100%子会社となる。そして、ゼロックスはこの買収に対する自社の株主への融和策として25億ドル(約2700億円)の特別配当を実施する。
その後、ゼロックスが第三者割当増資を実施し、それを富士フイルムHDが富士ゼロックス株式売却で得た6700億円を使って増資を引き受けることで、富士フイルムHDがゼロックス株の50.1%を取得。株式の過半数を握り、古森会長がゼロックスのCEOとなるというシナリオである。これを18年中に完了すると見込んでいた。
6700億円での買収というが、実際は富士フイルムHD側のキャッシュは外部に出ない、つまり富士フイルムHDは一銭の資金も使うことなくゼロックスの経営権を握るという、とてもスマートな絵に描いたようなスキームである。
このゼロックスのM&Aスキームは、17年度の連結業績予想の下方修正と、富士ゼロックスの18年度以降に拠点統廃合と1万人規模のリストラという大掛かりな構造改革とセットでの発表であり、この時点では古森会長は実現にかなりの確信があったと思われる。その背景には、今回のディールには、業績の振るわないゼロックス救済の含みもあると考えていたからではないか。ゼロックスはコピー機とプリンタの複合機化が進むなかで、長らく業績不振に陥っており、業績回復の兆しは見えていない。01年には富士ゼロックス株の25%を富士写真フイルムに売却している。
このような背景のなかで古森会長は、特別配当もあることからゼロックス株主の理解を得られると踏んでいたのではないか。
では、なぜ誤算が起きたのだろうか。