人工知能やビッグデータなどの技術革新によって、今後の私たちのビジネスが大きく変わっていくことは想像に難くない。
では、そうした時代を迎えるにあたり、成長する組織と没落する組織の違いはどこに生まれるのだろうか。その答えを探るには、違いの輪郭がはっきりと見えつつあるアメリカの事例がおおいに参考になる。
アメリカでもっとも高い評価を受ける技術・経営コンサルティングのひとつであるブーズ・アレン・ハミルトンのジョシュ・サリヴァン氏とアンジェラ・ズタヴァーン氏による『人工知能時代に生き残る会社は、ここが違う!』(集英社/ジョシュ・サリヴァン、アンジェラ・ズタヴァーン著、尼丁千津子訳)では、企業が飛躍的な成長を遂げるためのリーダーの条件がつづられている。
この連載では、本書を手がかりに人工知能時代のリーダーの条件を伝えていく。第1回のテーマは、「人工知能時代のリーダーの重要性」について探る。
「人とマシンのマネジメント」が必要な時代に
本書では、未来で成功する組織モデルの構築に必要な要素を持つ企業を「マセマティカル・コーポレーション」と名付けている。
ここで重要になるのが「リーダー」の存在である。なぜなら、リーダーがマネジメントすべき存在は、人間だけでなくコンピュータにも及ぶからである。
マシンは、これまで発見できなかったさまざまなものを見つけ出すだろう。しかし、それだけではビジネスの飛躍的な発展にはならない。新たな発見を積み重ねていくことで新たな戦術の可能性を増やしていき、その可能性が戦略に影響を及ぼしていく。
たとえば、心臓の駆出率(心拍ごとに心臓が送り出す血液量<駆出量>を心臓が拡張したときの左室容積で除した値【※1】)の場合、コンピュータは心室の形状や状態の細かい異変を見つけ、疾患の兆候を見つけ出すことができるかもしれない。そうした発見が積み重なっていけば、今日の医療業界の主流とは異なる心疾患治療ビジネスが発展していくだろう。
この事例は、コンピュータによる新たな発見がビジネスの戦略そのものを変えてしまう可能性を示唆している。
この可能性を現実にするためには、リーダーがこれまでのようなマネジメントから脱し、人間中心の組織にコンピュータをうまく取り入れて共同作業をさせることが必要になる。
自動運転でトラック運転手の労働時間が激減
もうひとつ、リーダーの重要性が問われる事例を紹介しよう。
グーグルのエンジニアが立ち上げ、2016年にウーバーに買収された企業のオットーは、13年以降に生産されたトラックの運転席上部のルーフに取り付けることで車体を自動運転に対応できるシステムを開発し、運送業者向けに3万ドルで提供している。
『人工知能時代に生き残る会社は、ここが違う!』 技術が飛躍的に進歩して、膨大なデータを解析して新たな事実を発見したり、埋もれていた細かい事例をすくいあげることが可能になった。しかし、その技術をどう生かすかは、人間の発想次第だ。常識や制約にとらわれないアイデアを生み出し実現させているリーダーたちのひらめきは、どこからくるのだろうか。