人工知能やビッグデータなどの技術革新によって、今後の私たちのビジネスが大きく変わっていくことは想像に難くない。
では、そうした時代を迎えるにあたり、成長する組織と没落する組織の違いはどこに生まれるのだろうか。その答えを探るには、違いの輪郭がはっきりと見えつつあるアメリカの事例がおおいに参考になる。
アメリカでもっとも高い評価を受ける技術・経営コンサルティングのひとつであるブーズ・アレン・ハミルトンのジョシュ・サリヴァン氏とアンジェラ・ズタヴァーン氏による『人工知能時代に生き残る会社は、ここが違う!』(集英社/ジョシュ・サリヴァン、アンジェラ・ズタヴァーン著、尼丁千津子訳)では、企業が飛躍的な成長を遂げるためのリーダーの条件がつづられている。
この連載では、本書を手がかりに人工知能時代のリーダーの条件を伝えていく。第2回のテーマは「リーダーの思い込みをなくす」というものだ。
調査研究を変えたマシンインテリジェンス
人間は、一度「不可能だ」と思い込むと思考をストップしてしまいがちだ。しかし、これからの時代においては、その「思い込み」という制約を取り外していかなければ、成長を続けることはできないだろう。
では、リーダー自身が思い込みの枠を外すにはどうすればいいのか。
本書では、アメリカのオレゴン州立大学ハットフィールド海洋科学センターの所長を務めるボブ・コーエン氏の事例が取り上げられている。
コーエン氏は、かつて水深100mに網を下ろし、あらゆる生物のサンプルを採取していたが、現在は新規に導入したカメラを調査船に吊り下げて撮影し、その画像を基に生態系の確認と分析を行っている。
このテクノロジーの導入が調査方法や問題解決に対する無数の制約を打ち破り、より幅広い生態系の分析を可能とした。コーエン氏は、「想像すらできなかったほどの壮大な問いが立てられるようになりました」と語る。
調査方法をサンプルの採取から最新テクノロジーを用いた撮影に変更したことで、分析の方法は大きく変わり、また新たな可能性が広がる。この調査研究の進歩は、考えてみれば当然なのだが、コーエン氏自体が長年の間その制約にとらわれていた。
一方で、コーエン氏はマシンインテリジェンスの導入に意欲を持っていた。そして、コーエン氏の調査方法の進歩は「マシンインテリジェンスの仲介役」の企業・カグルと、前述したブーズ・アレン・ハミルトンが共に主宰する「コンペの成果によるところが大きい」と本書の著者たちは説明する。
このコンペでは、カグルに賛同するデータサイエンティストたちがチームを組み、コーエン氏の6000万枚を超える画像に写るプランクトンの種類をコンピュータに特定させる競技に参加した。
『人工知能時代に生き残る会社は、ここが違う!』 技術が飛躍的に進歩して、膨大なデータを解析して新たな事実を発見したり、埋もれていた細かい事例をすくいあげることが可能になった。しかし、その技術をどう生かすかは、人間の発想次第だ。常識や制約にとらわれないアイデアを生み出し実現させているリーダーたちのひらめきは、どこからくるのだろうか。