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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」 

私がこの10年で目の当たりにした、中国が世界中を席捲していく様

文=篠崎靖男/指揮者

ダーバンのオーケストラの再興

 南アフリカはアフリカのなかでも飛びぬけて経済規模が大きく、ほかの国と比較すると生活も安定しています。確かに治安が良いとはいえませんが、現在はロシアや中国とともにBRICSの一員として、世界の注目を浴びる国に急成長しています。特に2010年のFIFAワールドカップ・南アフリカ大会開催をきっかけに、インフラも随分と整備されました。

 17世紀後半からオランダ系の移民が入り込んだ土地ですが、その後、英国の植民地となり、独立後も英国から経済や文化の強い影響を受け続けています。ところで、「アパルトヘイト」をご存じでしょうか。1948年に施行された悪名高い人種隔離政策です。白人と有色人種は居住場所まで隔離されました。簡単に言うと、移民の白人が、先住者の黒人を追い出したわけです。1994年に撤廃されましたが、アパルトヘイト施行中は、黒人はまともな教育すら受けられませんでした。僕が初めて訪れた頃は、まだホテルのフロントには白人が必ず1人はいたものです。やはり、黒人だけでは心許無かったのかもしれませんし、当時は、僕も実際にそう感じていました。しかし、それが最近では、しっかりと教育を受けた黒人だけでフロントがしっかりと回るようになりました。教育の重要性を感じます。

 現在、南アフリカには3つのメジャーオーケストラがあります。アパルトヘイト時代には、国家の文化予算のほとんどは白人につぎ込まれていたので多くのオーケストラがあり、英国をはじめ西欧からもたくさんの音楽家が集まっていました。しかし、アパルトヘイトが終息し、人種の比率に応じて国家予算をつけることになったため、少数派である白人文化であるオーケストラはすべて倒産の憂き目を見たのです。

 それは、今、指揮をしているダーバンのオーケストラも同じでした。その後、彼らも復興を目指しますが、大きな問題にぶち当たりました。多くの楽員はすでに職を求めて国を離れていたのです。しかしながら他方では、1989年にドイツで「ベルリンの壁」が崩壊したことで、ロシアや東欧の優秀な楽員は自国から出たがっていました。彼らも、「再び暗黒の共産主義に戻るのではないか」と不安だったのでしょう。これをチャンスと、ダーバンのオーケストラは東欧に出向いて楽員の誘致を図り、その結果、著名なオーケストラのコンサートマスターをはじめ、多くの優秀な音楽家を手に入れることができたのです。今もなお、彼らのルーツであるスラブ系の音楽、チャイコフスキーや、リムスキー・コルサコフの楽曲は特別な演奏となります。

 さて、今週の仕事は、「女性の日」の特別コンサートです。人種はもちろん、性別も超えて南アフリカは発展しています。国連は、3月8日を「国際女性の日」と決めていますが、南アフリカでは8月9日を「国民の女性の日」として祝日に制定しています。
(文=篠崎靖男/指揮者)

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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