「貿易戦争に負けるわけにはいかない」――アメリカのドナルド・トランプ大統領は6月2日にツイッターでこう述べた。
アメリカは3月に米通商拡大法232条を36年ぶりに適用し、鉄鋼とアルミニウムに対する追加関税を発動した。当初は適用を除外されていたヨーロッパ連合(EU)やカナダ、メキシコにも6月1日に関税を発動したことで、主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議は紛糾する事態となった。
また、米通商代表部(USTR)は「中国による知的財産権の侵害は明らかだ」として世界貿易機関(WTO)に提訴し米通商法301条を発動、中国から輸出される約1300品目に25%の関税を上乗せする予定だ。ほかにも、アメリカは中国の通信機器大手である中興通訊(ZTE)に対して取引禁止措置を取っており、同じく通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)には米司法省が違法輸出の疑いで捜査を進めている。
「トランプ大統領は本気で中国を潰す気でしょう」と語るのは、5月31日に『これからヤバイ 米中貿易戦争』(徳間書店)を緊急出版した経済評論家の渡邉哲也氏だ。アメリカの対中戦略と貿易摩擦のゆくえについて、渡邉氏に聞いた。
「中国製造2025」を狙い撃ちにする米国
――アメリカ発の貿易摩擦が世界に波及しています。最大のターゲットは中国ですか。
渡邉哲也氏(以下、渡邉) アメリカの貿易赤字(2017年)を見ると、合計7962億ドルのうち中国が47.1%を占めており、トランプ大統領は公約である貿易赤字削減に手段を選ばない姿勢です。アメリカはかねて中国のダンピングによる鉄鋼輸出を厳しく非難しており、WTOルールに基づいて複数の反ダンピング関税を課していました。鉄鋼・アルミの追加関税についても、最大の標的は中国でしょう。
また、昨夏から調査を進めていた知財侵害の件ではスーパー301条(米通商法301条)を発動しましたが、これは中国が掲げる「中国製造2025」を狙い撃ちにしています。中国は産業用ロボットや航空宇宙分野など成長が見込まれる10大産業に資金を集中投下して、重点的に育て上げる政策を掲げています。そして、低コストで大量生産する「製造大国」から、2025年に「製造強国」、2049年に「世界一の製造強国」を目指すとしているのですが、アメリカはこの10大産業をターゲットに定めているのです。
――中国も対抗策を示す一方で、アメリカからの輸入拡大策を提案するなど、駆け引きが続いています。
渡邉 6月3日には3回目の米中通商協議が終わりましたが、今回も輸入拡大策の具体案は示されませんでした。また、前回は米中共同の声明が発表されましたが、今回は中国単独であり、協議は難航したと見るのが自然です。
さらに、同協議に先立って、アメリカは一時は先送りで合意していた追加関税について「6月15日までに最終品目を決定、その後すぐに発動する」と再び強硬姿勢に転じました。6月12日には米朝首脳会談が開かれる予定であり、その直後に設定することで中国に揺さぶりをかけています。
『これからヤバイ 米中貿易戦争』 経済崩壊を食い止めるために習近平は独裁的権力を強化、国営企業の増強で海外市場を荒らし、南シナ海侵略を本格化させている。そのカラクリに気づいたアメリカは、同国で買収攻勢を強めてきた海航集団や安邦を融資規制で破綻危機に追い込み、ZTEとの取引禁止、中国への制裁関税強化など、次々と対中規制を打ち出している。米朝首脳会談に臨むトランプは、北朝鮮の態度急変の裏に中国の存在を公言、決定的となった米中激突のシナリオを描く!