年に一度の中国の全国人民代表大会(全人代)が3月5日に開幕した。これは日本の国会にあたるもので、中国の重要政策などが決められる。国家主席の任期撤廃を盛り込んだ憲法改正などが注目されているが、中国経済は金融リスクのコントロールが喫緊の課題であり、昨年の中国共産党全国代表大会でも、習近平国家主席が2020年までの筆頭課題に挙げている。
しかし、実態はますます混迷を深めているといえるだろう。先日には、総資産2兆元(約34兆円)で中国3位の保険会社である安邦保険集団が一時的に国有化された。海外で買収合戦を繰り広げてきた安邦は改革開放と欧米型金融のシンボル的な存在であったが、昨年6月には、その旗振り役であった創業者で会長の呉小暉氏が中国当局に拘束され、さらに当局が銀行に安邦の商品の取り扱い禁止を命じるなど、その先行きが危ぶまれていた。
そして、中国政府は「安邦の違法な活動で同社の支払い能力が脅かされたため」という理由で、安邦の経営権を1年間は管理下に置くことを発表した。今後は、中国保険監督管理委員会を中心に中国人民銀行などが経営権を握るという。
また、同時に呉氏は会長職を解かれ詐欺罪で起訴されたことも明らかになり、衝撃を呼んでいる。呉氏はトウ小平氏の孫娘と結婚した人物で政界にも近く、そのネットワークを生かして世界的な買収を積極的に行っていた。14年には、ニューヨークの高級ホテルであるウォルドルフ・アストリアを約20億ドル(約2130億円)で買収したことで、安邦は一躍注目を浴びた。
今後、安邦には公的資金の注入も含めた資本増強策が実施されることが濃厚だ。しかし、中国の経済誌「財新」は昨年4月の時点で「安邦のバランスシート上の損失が2兆元(約34兆円)」と報じており、経営再建のためにどれだけのコストがかかるかは不透明な状況だ。
ただでさえ、中国は国有企業の肥大化が懸念されている。昨年の党大会で、習主席は「国有企業の民営化」ではなく「民間企業の国有化」という方向の国有企業改革を進めることを明らかにした。さらに、全人代の政府活動報告で李克強首相は「(国有資本を)より強く、より優秀に、より大きくする」と語っており、国有企業の市場占有がさらに進みそうだ。
一方で、中国は過剰債務の解消も大きな課題となっており、今回の安邦の国有化もその一環といえるのだろう。
中国で流行する「理財商品」とは
中国に限らないことだが、経済成長は一定のレベルに達すると減速し、同時に銀行の金利などは低下する。そのため、中国では資産運用の手段として「理財商品」(高利回りの金融商品)の人気が高まり、その合計残高は17年の時点で52兆元(約900兆円)に上るといわれる。
当然ながら、金利が高いということはリスクも高い。理財商品も元本が保証されないものも多いが、中国の場合は国有企業が発行主体になっていることが多いため、そのリスクが正しく認識されてこなかった。理財商品を組成する銀行や保険会社が国有企業であるため、投資家は「元利払いを保証してくれるだろう」「安全なはずだ」として買っていたわけだ。
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