――11月に中間選挙を控えるトランプ政権は、幹部の交代が相次ぎました。
渡邉 一言でいえば、国際協調派から強硬派に入れ替わりました。3月に大統領補佐官(国家安全保障問題担当)のハーバート・マクマスター氏が解任され、後任に「自国第一主義」に共鳴する元国連大使のジョン・ボルトン氏が就きました。
対北朝鮮政策などでの不一致が指摘されていたレックス・ティラーソン氏は3月に国務長官を解任され、後任には保守強硬派で元米中央情報局(CIA)長官のマイク・ポンペオ氏が就任しています。貿易政策の不一致で辞任したのは国家経済会議委員長のゲーリー・コーン氏で、後任には対中制裁も辞さない経済評論家のラリー・クドロー氏が就きました。
そのなかで、今後は通商製造業政策局長のピーター・ナバロ氏が力を強めるのではないかともいわれています。対中強硬派として知られるナバロ氏は、前述したスーパー301条の適用についても、「中国は知的財産権の侵害で、人工知能(AI)や自動運転など未来の産業の支配をもくろんでいる」と中国の動きに警鐘を鳴らしており、大統領補佐官への昇格も見込まれている人物です。
共和党との関係性構築という意味でも、当初は共和党が推薦する閣僚を選ばざるを得なかった側面もあったと思われますが、ようやくトランプ色の強い布陣ができあがってきたということです。周知の通り、人事の刷新と時を同じくして対中制裁や北朝鮮情勢が動き出しました。
中国潰しを狙う米国の“ハゲタカ”
――今後、アメリカは中国をどうするつもりなのでしょうか。
渡邉 米朝首脳会談を契機に、北朝鮮の後ろ盾である中国を切り崩したいという狙いがあるのは明らかです。中国経済は現在の成長率を維持すれば2030年代前半にもGDP(国内総生産)でアメリカを抜いて世界1位になるという見方もあります。前述した中国製造2025の狙い撃ちにしてもそうですが、アメリカとしては「今のうちに潰しておきたい」というのが本音でしょう。
そして、今アメリカが考えているのは「中国に投資して利益をいただく」というモデルではなく、「中国を潰して、いかに儲けるか」という方向性であると思われます。かつて、日本もバブル崩壊後に“ハゲタカ”といわれる勢力に食い荒らされたことがありますが、それと同じ構図です。そもそも、米商務長官のウィルバー・ロス氏やUSTR代表のロバート・ライトハイザー氏など、トランプ政権には日本のバブル崩壊時にハゲタカとして暗躍した人物も少なくありません。しかし、そのターゲットはすでに日本でないことは明らかであり、必然的に中国に照準を合わせているということが見えてきます。
また、中国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)や「一帯一路」などで人民元の拡大を狙っていますが、米財務省にとっては基軸通貨であるドル支配体制の維持が宿願であり、その障壁となるものは徹底的に潰す姿勢です。こうして見ると、アメリカによる中国潰しの構図が鮮明になってくるのではないでしょうか。
『これからヤバイ 米中貿易戦争』 経済崩壊を食い止めるために習近平は独裁的権力を強化、国営企業の増強で海外市場を荒らし、南シナ海侵略を本格化させている。そのカラクリに気づいたアメリカは、同国で買収攻勢を強めてきた海航集団や安邦を融資規制で破綻危機に追い込み、ZTEとの取引禁止、中国への制裁関税強化など、次々と対中規制を打ち出している。米朝首脳会談に臨むトランプは、北朝鮮の態度急変の裏に中国の存在を公言、決定的となった米中激突のシナリオを描く!