ドイツの高級車メーカーBMWが苦境に立たされている。韓国でBMW車の出火事故が相次いだことから、BMW韓国法人がリコール(回収・無償修理)の実施を公表、政府はBMWの販売店で安全を確認していない車の運転中止を命じる異例の措置に踏み切った。火災の原因は不明で、リコール対象車以外のBMW車の火災も確認されている。
さらに韓国国内では、BMWの消極的な対応を非難する声が上がっている。欠陥隠しや違法なソフトを搭載していた疑いも浮上しており、ブランドの毀損は避けられないBMWは“火消し”に手を焼いている。
韓国では高速道路などを走行するBMWのディーゼル車が炎上する事故が2018年だけで40件近く発生している。BMW韓国法人は7月下旬に、BMW車の排ガス再循環装置(EGR)に不具合があるとして、42車種・約10万6317台のリコールを国土交通省に届け出た。
韓国政府は、炎上する可能性のあるBMW車が人命を脅かす危険があることから、販売店で緊急点検を受けていないリコール対象車について、8月15日以降の運転中止を命じるよう全国の自治体の首長に要請した。韓国では、安全運転に支障がある場合、自治体の首長が整備や運転中止を命令できる制度がある。BMWの販売店には、期限前までに安全確認を完了するため、顧客が殺到、2万台程度のBMW車がリコールを完了できずに運転できなくなった。
混乱はこれだけではない。BMW車は韓国で2015年頃から火災が頻発しており、今回のリコール対象車以外のBMW車でも炎上した事故が発生している。こうしたこともあって、韓国では火災発生のリスクを理由に、BMW車の施設への入場や駐車を禁止する動きも一部で出ているという。
「BMWは責任逃れ」との非難広がる
BMWは、これまでの調査でEGRの不具合が火災発生の原因と見ている。ただ、世界で韓国向けの車両だけ特別なEGR部品を使用しているわけではないにもかかわらず、韓国だけで集中して火災事故が発生している理由は明確になっていない。一部でディーゼル車の燃料である軽油の品質が低いことが原因と推察する声があるが、詳細は明らかになっていない。
一方で、多発するBMW車の火災に関して、BMWの広報担当者が「韓国特有の問題があるかもしれない」とコメントしたと一部で報じられたことから、韓国国内で「BMWは責任逃れをしている」と非難する声が広がった。これに焦ったBMWは「コメントは誤訳だった」と釈明したが、BMWに対するブランドイメージの悪化は避けられない状況だ。
BMWはもともと「上司の命令は絶対」で、「失敗の責任は他者に押し付ける」のが当たり前という、自動車業界でも官僚的な組織として有名で、「(本社のある)ミュンヘンのゲシュタポ」と揶揄されるほどだ。このため「韓国だけで火災が相次いでいるなら、原因は韓国特有の問題があり、BMWの責任ではないと考えるのは当然」(自動車ジャーナリスト)というわけだ。
韓国世論のBMW批判の高まりを見てか、警察当局はBMW車に不正なソフトが搭載されていなかったかや、BMWが欠陥を把握していながら隠蔽していた疑いがあるとして捜査を開始したという。独フォルクスワーゲン(VW)のディーゼル車の排ガス不正問題を機に、独検察当局は今年3月、ディーゼル車に不正なソフトを搭載していた疑いがあるとしてBMWの本社を捜索している。
VWと同様、排ガス試験時だけ有害物質の排出量を低減する不正なソフトを搭載していた疑いが持たれており、BMWは当局の動きを察知したのか、今年2月に「5シリーズ」や「7シリーズ」のディーゼル車を対象に、排ガス量を制御するソフトのプログラムに不具合が見つかったとしてリコールの実施を発表。ただ、不正なソフトの搭載については真っ向から否定している。今回の韓国で相次いだ火災とソフトの関係は不明だが、当局から疑いの目を向けられるのは仕方がない側面もある。
日本でもBMW車以外の火災事故は発生
BMW車の火災が大きくクローズアップされているが、日本でも自動車の欠陥が原因による火災は決して少なくない件数で発生している。消防庁の調査によると、製品の欠陥が原因の火災は13年に34件も発生、その後は減少してきたとはいえ17年に22件も発生している。さらに、製品の不具合が原因だった可能性のある自動車の火災も、13年には242件発生し、15年には150件に一旦減少したが、16年に196件、そして17年に192件発生している。
ちなみに17年の欠陥が原因で火災が発生した22件は、ホンダの「バモス」「フィット」、アルファロメオの「スパイダー」、スバルの「レヴォーグ」などで、17年に限るとBMWは含まれていないが、今後を懸念する声がある。
BMWは韓国に続いて欧州でも約32万台のBMW車のリコールを公表した。これに対して日本法人ビー・エム・ダブリュー(BMWジャパン)は韓国でリコール対象となったモデルを輸入・販売しているものの「BMW本社の指示にもよるが、現段階でリコールの予定はない」(広報部)としており、対応がチグハグだ。今後、日本国内を走行するBMW車に対して厳しい目が注がれそうだ。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)