ディーゼルは絶滅危惧種
ドイツがディーゼルエンジンの排ガス不正で揺れている。一方、欧州ばかりか日本でもディーゼルエンジンの開発・生産を中止する自動車メーカーが続出している。積極的にディーゼルエンジンを開発するのは、トラック・バスメーカーと乗用車メーカーではマツダだけである。ディーゼルは生き残れるのか。それとも近々に絶滅するのか。
会長が逮捕されたアウディ
ドイツの検察当局は6月18日、世界的な高級車メーカーであるアウディのルペルト・シュタートラー会長を逮捕した。容疑はディーゼルエンジンの排ガスをめぐる不正である。詐欺や虚偽記載の疑いがかけられている。当局は逮捕に先立って、6月11日には会長の自宅を捜索している。嫌疑がかけられているのは、シュタートラー会長だけではない。2015年以降、排ガス問題で6人の幹部が辞任し、現在は別の現役取締役も詐欺容疑で捜査対象である。
アウディは、世界一を狙うフォルクスワーゲン(VW)グループの一員である。販売台数ではグループの14%を占めるにすぎないが、営業利益は30%を占める。VWを支えるのは、アウディと世界的な高級スポーツカーメーカーのポルシェの2社だ。シュタートラー会長はVWグループの取締役を兼ねている。担当はVWグループの高級車ブランドである。巨大な自動車メーカーの重要な人物の逮捕は、グループ全体に大きな影響を及ぼすことになるだろう。
77.4万台のリコール ベンツよ、お前もか
ドイツ政府は、ダイムラーに欧州で77.4万台のリコールを命じた。ダイムラー傘下のメルセデス・ベンツのディーゼル車について、排ガス規制を逃れるために違法なソフトを搭載していたからである。リコールと引き換えに、ダイムラーは5000億円ほどの罰金を免れる。
リコール対象モデルは、商用車のVito、Cクラス、SUVのGLCであり、CクラスとGLCは日本でも2万2000台発売されており、ディーゼル車はこのうち20~30%である。これらのディーゼル車は、リコールに発展する可能性を捨てきれない。
リコールの理由は、ディーゼルの排ガス規制逃れの違法なソフトの搭載である。検査時にのみ排ガスを規制値以下に制御するソフトである。ということは、一般の走行時には、NOxもPM(微小粒子状物質)も垂れ流しだったというわけだ。パリもロンドンも、PM2.5の濃度は北京並みである。その責任の一端は77.4万台のダイムラー車にないとはいえない。
リコールすると出力減少、燃費悪化
VWに始まった排ガス違法ソフトの搭載は、グループ傘下のアウディとポルシェにおよび、さらにBMW、ダイムラーにもおよんで自動車技術王国ドイツを揺るがしている。
では、リコールを実施するとディーゼル車はどうなるのか。出力が減少し、燃費が悪化する可能性が高い。ディーゼルエンジンのメリットは、低回転でのトルクが大きく、力強い加速ができることと、燃費の良さだ。しかし、排ガス値を規制通りにし、クリーンな排気にすると、こうしたディーゼルエンジンのメリットは消えてしまう。ここが開発者の腕の見せどころなのだが、現状の技術ではどうやら環境と性能の両立は無理だったということだ。
ディーゼルエンジンの力が強くて燃費が良いというメリットは、吸い込んだ空気を強く圧縮して、軽油との混合気を自然に発火させ、急速に燃焼させることで生まれる。しかし、この燃やし方がそもそもNOxとPMの発生源なのだ。排ガスをクリーンにするには、強く圧縮せず、ゆっくり燃やすしかない。だが、こうするとガソリンエンジンのような燃え方となり、力は弱くなり、燃費もガソリンエンジンと同等になってしまう。
莫大な研究開発費
しかし、莫大な研究開発費を投入すれば、環境と性能の両立もできないわけではない。しかし、それは車両のコストが極めて高くなり、ディーゼル車がマーケットで競争力を失うことを意味している。また、EVやPHV、さらに自動運転車の開発競争が激化しており、新規のディーゼルエンジンの研究開発に回す予算はないのが、多くのメーカーの実情である。
欧州、日本と、世界のビッグカーメーカーが新規ディーゼルエンジンの研究開発を中止するばかりか、販売もやめるなかで、ドイツ勢はどうするのか。また、日本のマツダはどうするのか。自動車と自動車メーカーの生き残り戦は、ますます厳しくなりそうである。
(文=舘内端/自動車評論家)