50代なら「スペースインベーダー」、40代なら「ストリートファイター2」……少し時間があればゲームセンターに立ち寄り、ワンコインで遊んだという人は多いはずだ。しかし、そのゲーセンは今、風前の灯である。
国内のゲーム市場規模は1兆4000億円近くにのぼるが、その多くはゲームアプリが占めており、オンラインを含む家庭用ゲームが続く。もはやゲーセンのアーケードゲームは影が薄くなり、閉鎖する店舗も増えている。
ゲーセンは今、どうなっているのか。このまま消えてしまうのだろうか。
1980年代のピーク時から10分の1に激減
かつて、高校生や大学生が放課後に立ち寄る場所といえばゲーセンだった。店内は昼間でも薄暗く、タバコの煙がモウモウと立ち込めていた。
お金がないため、昭和の学生は瓶に入ったコーラを飲みながら、ひたすらデモ画面をながめた。平成に入ると、店内の雰囲気はやや明るくなったが、やはり学生はお金がないので、上手なプレイヤーの華麗なコンボ技を盗み見しつつ、店に置いてある寄せ書きノートにひたすらイラストを描いた。
しかし、そんな「青春のたまり場」が姿を消そうとしている。
ゲーセンは、1980年代半ばの最盛期には全国に3万店近くあったといわれる。しかし、80年代後半から減少に転じ、今では専業店は全国で3000店舗ほどになっている。ピーク時の10分の1に減少してしまったわけだ。しかも、ここ数年で廃業するゲーセンはさらに増加しているという。
ゲーセンが減少しているのには、合理的な理由がある。業界事情に詳しいゲームジャーナリストの吉田武氏は「まず大きいのは、全体的なインカム(売り上げ)が下がっていること」と指摘する。
「アーケードゲーム業界は、40年前のインベーダーゲームの時代から『1プレイ100円』という料金形態が崩れていません。当時と比べて物価は上昇し、機材や人件費も高騰していますが、経営側のさまざまな企業努力によって価格を維持してきたのです。にもかかわらず、たび重なる消費税増税でさらなる実質値下げを余儀なくされた。その営業的なダメージは計り知れません」(吉田氏)
業界も、プリペイドカードや電子マネーの導入などでプレイ料金を上げる試みを行ってはいる。しかし、「1プレイ100円」という“常識”は崩せず、今でも多くの店がワンコインで遊べるシステムを強いられているのが実情だという。
ヒット作減少、スマホ普及が“とどめ”に
それでもゲーセンが存続できていたのは、時代ごとにヒット作が生まれていたからだ。
「アクションゲーム、シューティングゲーム、パズルゲームと、ジャンルごとに次々とヒット作が生まれ、家庭用ゲームが普及しても、大型筐体の『体感ゲーム』など、ゲーセンでしかプレイできない機種を投入して人気を保っていました。なかでも、『ストリートファイター2』をはじめ、90年代に爆発的ブームとなった対戦型格闘ゲームは、売り上げにも大きく貢献することになります」(同)
さらに、「UFOキャッチャー」などのプライズ機、「プリント倶楽部」などのシールプリント機、メダルゲームのジャンルでも豪華な大型筐体が続々と開発され、手堅い人気を獲得した。
また、ビデオゲームに限らず、さまざまなジャンルの機種をそろえることで、ゲーセンは「アミューズメント施設」として進化し、幅広い層を集めることに成功してきた。
「2000年代に入っても、音ゲー(音楽ゲーム)やトレーディングカードを使ったゲーム、それに麻雀やクイズなどの通信対戦ゲームがヒットし、客足を支えました。ただし、これらの機種は大型で設備投資がかさみ、ネット接続料などの新たな経費も生まれました。そのため、客がついても大きな利益を生むまでには至らなかったのです」(同)
しかも、ここ数年はブームと呼べるほどのヒット作も生まれていない。音ゲーやメダルゲーム機では新機種がリリースされているが、ビデオゲームはシリーズものばかりで、新作ゲームはどんどん少なくなってきている。
そして、あらゆるエンターテインメント産業がそうであるように、とどめを刺したのが、インターネットとスマートフォン(スマホ)の普及の影響だ。
「家庭用ゲームがアーケードを超えるレベルにまで進化し、対戦型格闘ゲームもネットにつなげばゲーセンと遜色ないプレイが自宅でできるようになりました。ゲーム市場自体もスマホがメインになり、ちょっとしたゲームならスマホで遊べます。クレーンゲームですら、今やネットを介してスマホでプレイできますから」(同)
スマホがあればどこでもゲームができるという環境では、放課後の学生たちもゲーセンに集まる必要はないというわけだ。
施設内の「ゲームコーナー」が増えている理由
その結果、繁華街にあるゲーセンからは客足が遠のき、特に個人経営の店舗は壊滅状態になっている。また、ゲーセンを経営する企業にも撤退の動きが出てきているという。
「バンダイナムコ、セガサミー、カプコン、スクウェア・エニックス(タイトー)とゲーム開発会社直営の大手チェーンでは、不採算店舗の閉鎖が進んでいます。シグマというメダルゲームメーカーが運営していた『ゲームファンタジア』『アドアーズ』も、紆余曲折を経て『楽市楽座』を運営しているワイドレジャーに譲渡されるなど、合併が相次いでいます。業界団体も、JAMMA(日本アミューズメントマシン協会)とAOU(全日本アミューズメント施設営業者協会連合会)という2団体の時代が続いていましたが、今年4月に38年ぶりとなる団体統一が行われ、日本アミューズメント産業協会に一本化されました」(同)
各店舗は売り上げ激減によって現状維持が精一杯で、メーカーも新作をつくることができない。明るい材料があるとすれば、なぜか最近、ショッピングセンターの一角やボウリング場などのアミューズメント施設のなかに、ゲーム機が集められているコーナーをよく見かけるようになったことだろう。
「ゲーセンは、16年に改正された『風適法』で第5号営業に区分けされました。営業するには公安委員会への届け出が必要で、さまざまな業務適正化を求められます。しかし、ショッピングセンターなどの施設内にあり、ゲームコーナーの面積が店舗の10%以下であれば届け出の必要がありません。そのため、施設内のちょっとしたスペースにゲーム機を置くという需要は伸びているようですね」(同)
時代の流れとともに消えつつあるゲーセンは、どのような運命をたどるのだろうか。
(文=ソマリキヨシロウ/清談社)