もう一つの用途は、製品の品質評価だ。例えば、半導体の電気抵抗は、用途によって求められる値が異なる。その半導体に求められる値かどうかを測定する品質検査や、購入した製品の受け入れ検査などにも用いられる。
その代表的な製品の一つが、タッチパネル用フィルム導電膜のシート抵抗測定装置だ。スマートフォンやタブレットの画面には、タッチパネル用のフィルムが貼られている。そのフィルムの抵抗率を、生産工程においてインラインで、ラインを止めることなく測定する装置だ。
この製品については、競合といえる会社はドイツの一社に限られる。性能的にはナプソン製のほうが優れるため、タッチパネル用のフィルム導電膜の測定器市場は、ほぼナプソンの独壇場だ。ちなみに、これら測定器の価格は80万円ほどの小型のものから、高価なものでは5000万円を超える。ボリュームゾーンは数百万円だ。
徹底した技術者優遇
ナプソンは1984年、前社長の結城忠信氏ら3人によって創業された。
「創業した頃は“ジャパン・アズ・ナンバーワン”といわれた時代で、日本の半導体メーカーは世界シェア1位から6位までを独占するなど、世界のトップを走っていました。わが社は、その流れにそって歩んできました」(中村氏)
ところがその後、状況は一変し、半導体不況を迎える。1990年、91年と、需要が落ち込んで苦しい時代を迎えた。一時、受注残高500万円というレベルまで追い詰められた。中村氏自身、「もうもたないかもしれない……」と覚悟した。
しかし93年ごろから国内の液晶市場が勢いづいて忙しくなった。
「その後、ずっと忙しかったですよ。08年のリーマンショックのときは、さすがに大変でしたけど、それでも黒字でした」(中村氏)
半導体産業は、もともと「シリコンサイクル」という言葉で知られるとおり、市況に大きな波がある。そうなると、測定器など関連企業は、ひとたまりもない。大波に翻弄され、ときに泳ぎ切ることができずに淘汰されるケースが少なくない。
ナプソンは「シリコンサイクル」に翻弄されながらも、生き延びることができたのは、なぜか。技術者を優遇し、育成を怠らなかったからである。企業の規模にかかわらず、企業の競争力は、つまるところ人材である。