6月には産業技術総合研究所つくばセンターつくば北サイトで、「後続無人」を想定したトラック隊列走行の実証実験を行った。実験車両は、時速70km、車間距離10メートルで走行。車線変更や急ブレーキも行った。後続車はV2Vとミリ波レーダーによる車間距離維持に加え、GPS、レーザーライダーによる車線維持機能の自動制御を行い、先行車に追従した。先行車の加速度や位置データなどを受け取って、ハンドルやブレーキを連動するのだ。
人間ドライバーが隊列走行する場合、車間距離は20~30メートルないと危険とされる。しかし、CACC(協調型車間距離維持支援システム)制御の高度化によって安全を確保することにより、10メートル間隔が実現した。10メートル間隔であれば、隊列走行中に一般の車が割り込みにくくなるのは間違いない。19年には、公道で実証実験の予定だ。
多くの課題が存在
トラックの隊列走行技術には、数々の課題が存在する。
まず、車両自体が大きいための課題だ。乗用車とは勝手の違う部分が多い。そもそも、バスやトラックといった大型車両は、事故を起こした場合に被害が大きくなりやすい。当然、急停止はできないし、急なハンドル操作もできない。前輪と後輪の距離が長い分、内輪差も大きい。したがって、自動運転技術の導入においても、乗用車以上に慎重にならざるを得ない。
加えて、車線維持制御では車幅が乗用車よりも広い、すなわち車線内を走行するには物理的に余裕が少ない。その分、制御には高い精度が求められる。また、積み荷の重さ次第で、アクセルやブレーキの利き具合が変わるため、仕様が多様で、制御も複雑だ。
さらに、通信システムの信頼性だ。前述のように、V2V、CACC、GPS、レーザーライダーなどを駆使するが、万が一にでも通信が途絶えることがあれば、後続の2台は制御不能になりかねず、危険極まりない。したがって、通信には高い信頼性に加え、二重、三重の通信手段の担保が必須だ。
その要求に応えるために、次世代通信規格5Gの搭載が必要となる。5Gは、高速大容量、超高信頼低遅延、多端末同時接続を特長とする。簡単にいえば、4Gと比べて帯域が広く、遅延が少なく、信頼性が高いため、自動運転のようなクリティカルな用途に向いているのだ。通信に関しては、サイバーセキュリティーの強化や義務付けも課題となる。
このほか、後続車は、車載カメラやレーダーなどで先行車を認識し、追従走行に入るが、無人の場合、一番始め始めは、どうやって先行車の真後ろにつけるのか。すなわち、どこからどう走り始め、いつから追従走行に入るのか。仮にかりに、いずれかのサービスエリアから隊列走行をスタートするとした場合にも、いかにして合流するのか。車線変更の場合と同じく、隊列を組んだまま、隣の車線へ合流しようとすると、どうしても一般車両が、隊列の間に割り込むかたちになりやすい。したがって、場合によっては、高速道路に隊列走行用のレーンや信号機などの設置が必要となるかもしれない。
また、運転手の負担の問題もある。例えば、現状の有人隊列走行を考えた場合、先頭車両に乗るドライバーは、後続車に乗るドライバーに比べて、肉体的、精神的に強い負担を強いられる。さらに、無人隊列走行となったとき、3台を一人で負担するドライバーに対し、報酬はどの程度払うことになるのか。3倍の報酬を払うならば、3人を別々に雇う場合とコストは同じになる――など、具体的な話は、これから詰めていかなければならない。
トラックの隊列走行は、このように多くの課題があり、プロジェクトは一筋縄ではいかないのだ。しかし、商用車の自動運転化の波は、世界中に押し寄せている。この波を止めることはできない。確実に実現に向けて進めていかなければならないだろう。
(文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家)