人が車のハンドルを手放すのは、もはや時間の問題かもしれない。カメラやセンサー、AI(人工知能)などが劇的な進化を遂げ、かなり先だと考えられてきた自動運転の普及が予想以上に急加速しているからだ。
世界の主要メーカーは2020年代前半の完全自動運転を視野に入れており、なかでも、独アウディは17年に世界初の「レベル3」の量産車の市場投入、米フォードは基本的な運転操作をすべてAIに任せる「レベル4」の車を21年までに量産すると明言している。
日本で自動運転の先頭を走るのは、日産自動車だ。13年11月、自動運転技術を搭載した「リーフ」の実験走行を国会周辺の公道で実施したのに続き、同月、神奈川県内の高速道路で実証実験をスタートさせた。
自動運転を一気に身近な存在にしたのは、日産が16年8月、事実上の「レベル2」とされる同一車線自動運転技術「プロパイロット」を搭載した初の市販車を発売したことである。プロパイロットを高級車ではなく普及価格帯の新型ミニバン「セレナ」に搭載したことについて、日産専務執行役員の星野朝子氏は、16年8月24日に横浜の日産グローバル本社で開かれた新型セレナの記者発表の席上、次のように語った。
「高級車からプロパイロットを搭載していくこともありだったと思いますが、一人でも多くのお客さまに、このすばらしい自動運転技術で、ラクで楽しいドライブを経験していただきたいと思い、あえてファミリーカーの代表格である『セレナ』から搭載する戦略をとりました」
自動運転車が人間の運転手にとって代わるようになれば、注意散漫、速度超過、判断ミスなど、人に起因する事故は大幅に減るだろう。マイカー通勤でためこんできたストレスからも解放される。
また、信号機と連携することから停止、発進の回数が少なくなり、環境負荷の軽減にも役立つといわれている。さらに高齢者の移動手段の確保、過疎地の公共交通の自動化なども期待できる。
国の調査によると、交通事故の経済損失は年間約6兆3000億円、渋滞の経済損失は同12兆円に上る。自動運転は、こうした社会コストの低減という意味でプラスに働くことは間違いないだろう。
課題は、速すぎる技術の進歩に社会が追いついていないことである。自動運転技術が急速に進むなかで、社会も人も、それを受け入れる準備ができているとはいえないのだ。