実際、私は16年7月、日産の追浜にあるテストコースで「セレナ」のプロパイロットを体験したが、そのとき持ったのは、「自動運転車に慣れるのには時間がかかるだろうな」という感想である。
コースでは、渋滞の想定のもと、前の車に追随するので、ハンドルに手を添えているだけで基本的にはアクセルもブレーキもいっさい踏まなくていい。確かに、ラクだと感じながらも、何もしなくても車が動くことに違和感を感じずにはいられなかった。頭では理解していても、実際に乗ってみると、自動運転を受け入れるのは結構難しいと感じた。
自動運転の社会的受容
では、社会は自動運転といかに付き合うべきか。まず、自動運転を社会が受け入れるためには、自動運転システムを正しく理解する必要がある。それには、自動運転の法的側面からみるのがわかりやすい。
道路交通条約(1949年ジュネーブ条約)は、「車両には運転者がいなければならない」「運転者は適切かつ慎重な方法で運転しなければならない」と規定している。
しかし、完全自動運転になれば、運転者は不要だ。運転者の存在を前提とした現行の法令は見直さざるを得ない。事実、自動運転技術の開発では、運転者がいることを前提とした現行の法整備がすでに足かせになっており、米グーグルなどIT企業を中心に、法令の見直しを訴える声が高まっている。
自動運転の導入をめぐっては現在、安全基準などの国際的なルールづくりが進められている。国際連合欧州経済委員会の「WP1(道路交通安全作業部会)」では、「ジュネーブ道路交通条約」や「ウィーン条約」の改正に関する論議が行われており、日本からは警察庁が参加している。
同委員会の政府間会合(「WP29」)では、自動車の安全・環境基準に関する共通の基準づくりが進められている。14年11月に開催されたWP29では、「自動運転分科会」が立ち上げられ、システムに運転を任せたあと、人にどう返すかなどが議論されている。共同議長を務めるのは、日本と英国だ。また、WP29傘下の「自動操舵専門家会議」では、日本とドイツが共同議長を務め、10km/h超での使用が禁止されている自動操舵に関する規制改正の検討が進められている。
16年9月には、長野県軽井沢町で先進7カ国交通相会合が開かれ、自動運転の国際的なルールづくりに向けて協調することが合意された。同会合には、自動運転の規制において独自路線を走っていた米国も参加した。とはいえ、米国は日欧が進める枠組みに一部しか加わっておらず、独自路線を崩してはいない。