走行中に前方のクルマや人を検知して自動的にブレーキ制御を行う「衝突被害軽減ブレーキ」(自動ブレーキ)を搭載したクルマのCMが、テレビなどで繰り返し流れている。今や新車の販売台数に占める自動ブレーキ搭載車の割合は2016年で6割を超え、20年には約9割の新車に自動ブレーキが搭載されると予測されている。
自動ブレーキや「定速走行・車間距離制御装置」(ACC)は、自動運転の分類でいえば「人が主体」のレベル1~2に相当し、「クルマが主体」のレベル3~5(無人運転を含む)に比べると、まだ基礎的な技術にすぎない。それでも、前方不注意によるクルマとの衝突などを一定程度防いでくれるという意味では、事故防止効果は小さくない。
ただ、自動ブレーキを搭載したクルマの運転主体はあくまでドライバーだ。自動ブレーキは、人間の運転時のミスをカバーしてくれる補助的なシステムにすぎない。このシステムの現実と自動ブレーキに対する期待値との乖離に気が付かないドライバーが、意外に多いのが実情だ。
メーカーや車種によって大きな差
「クルマだけでなく、人にも反応してブレーキをかけてくれるんですよね? それは安心ですね」……自動車メーカーが搭載している自動ブレーキに対して消費者が持つ印象は、だいたいこんなものではないだろうか。前方のクルマや人などをカメラやセンサーで感知して、ドライバーがうっかりブレーキを踏み忘れた場合でもシステムが自動制御を行う。便利な機能には違いないし、実際に追突事故などは減っている。
ただ、「自動ブレーキはどんな場合でも利く」というのは大きな誤解だ。クルマの走行スピードや天候、日中か夜間か、前方の障害物が「クルマか人か」などによって、自動ブレーキの利きは大きく異なる。天候や道路状況などの外的要因だけでなく自動車メーカーや車種によって違うのだが、そうした事情はあまり知られていない。
その“違い”を明らかにしているのが、国土交通省と独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)が実施している「予防安全性能アセスメント」【※1】だ。17年度は乗用車(14車種)、軽自動車(6車種)の合計20車種を「被害軽減ブレーキ(対車両と対歩行者)」「車線逸脱抑制」「後方視界情報」で試験・評価し、結果を点数化している。
この予防安全性能で満点(79点)を獲得したのは、マツダ「CX-8」と日産「ノート」の2車種、それに続くのがマツダ「CX-5」(78.5点)、ホンダ「シビック」(78.4点)、ホンダ「N-BOX、N-BOXカスタム」(76.6点)、スバル「レヴォーグ、WRX」(76.5点)、トヨタ「ハリアー」(75.9点)などだ。昨年12月に軽自動車「ハスラー」の小型車版として発売されたスズキ「クロスビー」などの人気車種も評価対象になっており、同車種は79点満点中60.9点だ。
満点のマツダCX-8でも衝突することも
この点数の違いは、どこからくるのか。NASVAがホームページ上で公表しているデータを基に分析すると、意外な事実に突き当たる。
たとえば、79点満点中58.9点と、予防安全性能の評価が決して高くないスズキ「ワゴンR、ワゴンRスティングレー」の評価試験の結果を見ると、自動ブレーキの対歩行者の点数が25点満点中12.9点と低かった。原因は、時速35キロ、40キロ、45キロ、50キロで走行中に遮蔽物のないところから飛び出してきたダミー人形に衝突してしまったからだ。10キロ、15キロで走行中の同条件の実験では、自動ブレーキが作動して衝突を回避することができた。