アジアでは日本製の子ども用・紙おむつが人気だ。肌触りなどに優れる日本製が伸びる一方、中価格帯を主力とする世界最大手、米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)や、世界2位の米キンバリー・クラークのシェア低下が著しい。中国や東南アジア市場では「メリーズ」の花王、「ムーニー」のユニ・チャームがシェアを高めている。
そのユニ・チャームが攻勢をかけ始めた。タイの紙おむつメーカー、DSGTを買収した。買収額は5億3000万ドル(約600億円)。ユニ・チャームの海外M&A(合併・買収)案件としては過去最大規模だ。
DSGTはタイ、マレーシア、インドネシア、シンガポールなどで「BabyLove」や「Fitti」などのベビー用・紙おむつを展開。2017年12月期の売上高は日本円換算で約280億円。
ユニ・チャームは11年、ベトナムの乳児用・紙おむつと生理用品大手、ダイアナ社を買収した。買収額は100億円前後。ダイアナ社の売上高は50億円。ベトナムの紙おむつ市場でシェア30%、生理用品で40%を持ち、米キンバリー・クラークに次ぐ。
アジア市場でユニ・チャームが企業買収するのは、これが初めてだった。それまではタイやインドネシアなどで自社工場を建て独自の販売網を築き、東南アジアの紙おむつや生理用品のシェアで第1位となった。そのなかで、ベトナム市場の開拓は遅れていた。
13年にはミャンマーのミャンマー・ケア・プロダクツ(マイケア)を買収した。買収額は数十億円程度。マイケアは同国でトップシェアの生理用品を持ち、紙おむつでもユニ・チャームに次いで2位だ。
ユニ・チャームは自前主義を捨て、現地の紙おむつメーカーを次々と買収してきた。中国と並ぶ有望市場である東南アジアで、圧倒的なシェアを握るのが狙いだ。世界最大の紙おむつ市場である中国でシェアを落とした苦い経験が背後にある。
中国の紙おむつ市場で花王の「メリーズ」に完敗
中国は世界最大の紙おむつ市場だ。1997年に参入したP&Gの「パンパース」が席巻。2009年(暦年、以下同)には43%と圧倒的なシェアを誇っていた。だが、市場規模が膨らんでいくなかで、P&Gは逆にシェアを落とした。
P&Gのシェアを喰ったのは、値段は高いが品質の良い日本製の紙おむつだった。2000年にユニ・チャーム、09年に花王が中国へ進出した。12年にはP&Gのシェアは31.8%まで落ち、ユニ・チャームがシェア10.9%で2位に躍進した。
日本製・紙おむつブームの火付け役は、中国で最後発だった花王の「メリーズ」だ。13年ごろから中国の転売業者が日本のドラッグストアでメリーズを爆買いし、中国国内で転売した。日本ではドラッグストアの店頭からメリーズが消えてしまい、大騒ぎとなった。一時は、中国で流通する正規品の2倍の量の転売品が出回ったという。
「日本製品は漏れにくく、蒸れない」と、中国版ツイッターの微博(ウェイボー)で評判となった。花王のシェアは、12年の3.8%から17年には11.1%へと、6年間で7.3ポイント増加し、2位に浮上。メリーズの大躍進で首位のP&Gのシェアは31.8%から22.1%へと9.7ポイント下がった。
ユニ・チャームもシェアを下げた。12年には2位(10.9%)だったが、17年には8.3%へと2.6ポイント減少。花王に抜かれて3位に後退した。
同じ日本メーカーの製品なのに、なぜ売れ行きに大きな差が出たのか。中国人のお気に入りは、現地で生産したものではなく日本で製造しているもの。「メイド・イン・ジャパン」が売れ筋なのだ。
ユニ・チャームは、“日本製・紙おむつブーム”に乗れなかった。というのも、ユニ・チャームの海外展開は「地産地消」が原則。中国では上海など5工場があり、中価格帯の「マミーポコ」を生産してきた。だが、中国の消費者には、メイド・イン・ジャパン信仰が根強い。現地生産が仇となりユニ・チャームはシェアを落としたのである。
そのため、15年に戦略を転換した。現地生産のマミーポコから、高価格帯の日本製ムーニーの輸入による販促に重点を移した。
「ムーニー」の越境ECに注力
ユニ・チャームの18年1~6月期の連結決算(国際会計基準)の売上高は前年同期比7.8%増の3256億円、売上総利益から販管費を除いたコア営業利益は同21.4%増の472億円、最終利益は同19.1%増の300億円だった。
この好業績は、アジアが牽引した格好だ。アジア地区の売上高は1434億円。前年同期より136億円、10.5%の増収。コア営業利益は174億円で、同74億円、74.1%の増益だった。
中国やインドネシア、ベトナムなど主要国を中心に生理用品と子ども用・紙おむつが成長。コア営業利益率は7.7%から12.2%へ4.5ポイント上昇した。
中国人向けの子ども用・紙おむつは、輸出分を含めると1.5倍に拡大。これまで中価格帯のマミーポコの現地生産を軸にしてきたが、品質や信頼性を重視する消費者の好みに合わせて日本製で高価格帯のムーニーを越境EC(電子商取引)で供給することした。
国内の売上高は1315億円。88億円、7.2%の増収。コア営業利益は270億円で同8億円、3.3%の増益。中国への越境ECが約2倍になったことが寄与した。
ライバルの花王は15年にネット通販大手、アリババ集団と提携し、日本から越境ネット通販を始めた。ネット通販の高級紙おむつでは、メリーズのシェアが5割に達したとみられている。
中国市場でユニ・チャームは花王に大きく水を開けられた。そこで東南アジアで巻き返しに出た。現地化戦略を一新。現地の紙おむつメーカーにM&A攻勢をかけ、日本製ブームの波に乗る花王を激しく追う。
(文=編集部)