追加支援を明確に否定した。
5月28日、東京駅近くの会議室で開かれた、ルネサスと半導体受託製造最大手の台湾TSMCとの協業会見。「マイコン」をTSMCに一部生産委託するとの情報が事前にアナウンスされていたが、前週末に大規模リストラの報道が飛び出したこともあり、会場には大勢の記者が詰めかけていた。参加した記者は「普段、見かけない顔も多かった。金融担当も多く来ていたようだ」と語る。
記者会見に目立つ金融担当記者
それもそのはずだ。提携相手のTSMCは、日経報道などによればルネサスの主力工場の売却先として浮上しており、1300人規模の工場の従業員を引き受ける検討もしているという。ルネサスの大リストラの枠組みを左右するといっても、過言ではない相手だからだ。
ルネサスの手元資金は、1年前の半分以下に落ち込んでいる。有利子負債2600億円のうち、1年以内に返済が迫る短期返済が7割。資金繰りの厳しさを増すルネサスにとって、大規模な構造改革で身軽になるのは急務。当然、記者たちの関心もそこに集まる。今回の生産提携も、表向きは「震災後のリスク管理の一環としての生産分散化」とルネサスは説明するが、額面通り受け止める向きは少ない。というのも、他社に生産委託すれば、自社の生産量は減る。自社工場再編を進め、人員削減を少しでも進めたい意思の表れであると見るのが一般的だ。だが、この目先の利益を重視する動きこそが、ルネサスの未来の扉を閉ざしてしまう大きな一手になる可能性が高い。それは今回の提携対象としてマイコン、それも虎の子ともいえる自動車用マイコン生産を含むからだ。
赤字が続くルネサスだが、元凶は売り上げの約3分の1を占めるシステムLSI。残りの売り上げの3分の1ずつを占めるマイコンやパワー半導体の傷口は小さい。ルネサスは今回の構造改革でシステムLSIを本体から切り出し、人員削減を進め、マイコン、及びこれと関連するパワー半導体を軸とする企業への転身を狙っている。
幻想だった「ルネサスにしか対応できない」
マイコンは世界シェア3割を握り、業界首位だが、特に強いのが自動車用マイコンだ。自動車向けマイコンの品質管理の厳しさは広く知られる。それは、自動車メーカーが認めたラインでのみ製造することからも想像できよう。人の命にかかわるため、百万個つくろうと不良率をゼロにするという驚異的な品質管理を求められる。「世界を見てもルネサス以外、つくることは無理」との認識が広がっており、それがルネサスの自動車用マイコンの世界シェア4割につながっていた。自動車部品メーカー関係者は「一極集中の懸念はあったが、ルネサス以外に我々の要求に対応できる企業はないと考えていた」と振り返る。