『強烈なオヤジが高校も塾も通わせずに3人の息子を京都大学に放り込んだ話』(徳間書店)はご存じだろうか? 家庭教育に心血を注いだ、ある強烈なオヤジのストーリーだが、今回インタビューしたお相手は、その3兄弟の長男、宝槻泰伸氏。彼が経営する探究学舎(東京都三鷹市)は、子どもの知的好奇心に火をつけることで、「もっと勉強したい」という子どもたちが続出だとか。「うちの子、勉強嫌いで、やる気がなくて困る」と嘆く多くの親御さんに代わって、なんでそんなことが起きるのかを聞いてきた。AI(人工知能)と共存する未来を生きる子どもたちに必要な力や、2020年から始まる教育改革についても熱く語ってくれた。
「勉強が楽しくてしょうがない!」という子どもが育つ塾は、どうやって生まれたのか?
――なぜ探究する塾をつくったのですか?
宝槻 自分自身が、既存の学校教育に問題意識を持っていたということが大きいですね。詰め込み教育や受験指導とは違う教育の必要性を強く感じて、起業をしたのが始まりです。当初は、高校生のモチベーションを高めることが必要だと思っていたので、高校生向けにキャリア教育から大学進学に結びつけるアプローチを中心に、私立高校のコンサルなども行っていました。しかし、単発ではきっかけにはなるかもしれないけれど効果が出にくいし、既存の教育を変えたいと起業したのに、BtoBでは相手のニーズに沿うことになってしまう。そこで、継続的に子どもとかかわるために7年前に教室をつくって、自前のプログラムでチャレンジすることにしました。
探究的に受験対策をするのは難しいですが、教科書の内容を理解するときに、概念を理解することからというアプローチは可能です。たとえば、微分・積分を教えるときに、どうしてそれが生み出されたかをライプニッツの歴史からひもとき、現実社会でどのように生かされてきたかから始まって、演習に移行するといった具合です。
なにしろ、自分自身がそのアプローチで京都大学に合格したという実績がありますし、その後の社会経験で得た知見も加味して、知的好奇心を刺激するカリキュラムに軸足をおきつつ、受験指導はきっちりやるというスタイルをとってきました。そうでないと現状の入試には受からないですから。開業半年で40名の生徒が集まり、英語と数学の教科指導を探究のアプローチで行うことで、受験でも一定の成果はあげることができました。個人塾としてはよくやっていたと思います。
一方、現在行っているような探究の授業も、当時から歴史編と宇宙編だけをオプションとして無料で行っていました。結果、そっちのほうがおもしろいので、徐々に探究の時間が増えていきました。しかし、高校生対象だと、目先の成績が上がらなければ親は不満だし、子どももお金払ってもらっているのに、点数が上がらないと申し訳ないという気持ちになってしまう。
僕としては、短期で学校の成績を上げることは、やればできるけれど、そこにドロップキックを与えたいからこの仕事を始めたので、理念としてやらない。しかしそれでは目先の成績が上がらないので、「探究はおもしろいけれど、効果がない」ということになってしまい、僕の思いが通じない。ジレンマでした。