――現在は、受験と切り離して「探究」だけをやる塾になっていますよね。
宝槻 打破するきっかけが小学生です。もともとは、「弟も一緒にお願いします」と言って兄弟を連れてくるので、小・中学生を対象に授業も行うようになっていたんです。しかし、当時はまだ探究メソッドを研究していなかったので、算数・国語・英語をありきたりのテキストで教えていたのですが、それではおもしろくない。それより、歴史や宇宙、サイエンスをやるほうが、はるかに自分もおもしろいし子どもの受けもいい。
だんだん、「国語・算数30分ずつやった残りの30分は信長やアインシュタインをやろうか」となり、やってみればそちらのほうが子どもも生き生きしているので、やっぱり徐々に探究の時間が延びて、ついには小学生は探究しかやらなくなりました。
でもこれじゃ、保護者から文句がでるかなと思っていたら、思いのほか受けがよく、評価してくださるのです。なぜなら、塾から帰宅した子どもが目をキラキラさせて、東郷平八郎について話す。学校の宿題をしない子が、「明日の予習をする」といって本を読み出す。というように、これまで見たことのないくらい、子どもが知的好奇心を喚起されている様子に、親も探究の大切さを実感してくれました。そんなわけで、小学生をメインターゲットにして、探究オンリーの塾になりました。
「勉強はつまらない」を「勉強が楽しくて仕方ない」! に変える授業
――具体的にどのような授業を行っているのですか?
宝槻 算数発明編 戦国合戦編、ことば編、宇宙編などさまざまなプログラムがあります。
たとえば算数発明編では、数字やさまざまなモノの単位はどうやって生まれたのか、なぜ足し算は「+」の記号を使うのかなど、その発明の歴史から紐解いていきます。たとえば「円の面積は、半径×半径×3.14で求められるけれど、どうしてそうなの?」「誰が決めたの?」という質問に答えられますか? ただ公式を覚えるのではなく、なぜそうなるのか考えてみる。見たことのないことに疑問を持つことから、探究が始まるのです。決して、子どもの疑問を扱うのではありません。丁寧に子どもに寄り添うことのバリューはあるかもしれないけれど、それだとなんだか薄いダシのスープになってしまいます。僕の授業は激辛カレーかな。身の回りにある当たり前に、こちらから普段考えたこともなかった問いを投げかけ、感動体験を提供したいと思っています。
僕自身が、強烈な父の個性、エネルギーと波動を幼少期から浴びて育ち、物事を鵜呑みにしない癖が付いていました。やはり、小さい頃から浴びているものの影響を子どもは受けますよね。物事に興味を持ち、主体的に学ぶ子に育ってほしいので、子どもをぐいっと引き寄せるドライビングクエスチョンを投げかけて、日々驚きと感動の種をまいています。
実際に、授業を受けた子どもたちは、「探究で宇宙のことを学んでからは、宇宙についてもっと知りたい! 宇宙に行きたい! って思うようになりました」「歴史の特別授業で、戦国時代の戦いの陣形について知ってから、歴史の勉強が楽しくてしょうがない」といった感想を寄せてくれますから、種まきの手応えを感じています。最終的には、「さかなクン」を育てるのが自分たちのミッションです。好きなことにチャレンジして、社会に貢献できる大人に育てたいと思っています。
(文=中曽根陽子/教育ジャーナリスト)
※後編に続く