1月17日、電機大手の株式会社日立製作所が英国の原子力発電事業を中断し、3000億円程度の特別損失を計上すると発表した。先立ってその観測が報じられた11日、日立の株価は前日から8.64%上昇して引けた。株式市場の投資家は、英国での原発事業の中断、あるいは撤退は同社にとってプラスとの判断をしたようだ。
今回、日立の経営戦略が重要な局面を迎えたことを意味するが、リーマンショック後、日立は構造改革に取り組んで収益性を高めてきた。そのなかで、同社は原子力発電事業をインフラ事業強化のために重視してきた。ただ、国際世論や英国の政治動向などが原子力発電事業のリスクを高めてきた。
環境の変化を受けて、日立の経営陣からは英原発事業からの撤退の可能性を示唆する発言などが出てきた。これは、同社の経営陣が自社の経営環境を冷静かつ客観的にとらえてきたことの表れにほかならない。日立がどのように今後の持続的な成長を目指すか興味深い。
リーマンショック後の構造改革
リーマンショック後の日立の経営を見ていて痛感するのが、経営者の意思決定の重要性だ。構造改革を大胆に進め、経営の危機を切り抜けた川村隆氏(元会長、現東京電力ホールディングス取締役会長)の功績は大きい。同氏の功績のなかでも注目したいのが、環境変化への適応を進めたことと、後継者の選定だ。
川村氏の凄さは、自社の強みを見極め、それを伸ばすことによって組織全体の環境変化への適応力を高めたことにある。過去の成功体験や、企業の文化(長年従業員らが共有してきた価値観・行動様式)にとらわれることなく、危機に立ち向かう姿勢には学ぶべきところが多い。
2009年3月期、日立は7873億円の最終赤字を計上した。これは過去最大の赤字だった。10年3月期の最終損益も1070億円の赤字だった。このなかで川村氏は、総合電機メーカーから重電を中心とする企業へ、ビジネスモデルの改革を進めた。
特に、それまで日立が注力してきた薄型テレビをはじめとするデジタル家電事業を縮小したことは重要だった。それによって確保された経営資源を、川村氏は“社会イノベーション”に関連する事業に再配分した。社会イノベーションとは、交通・電力などの社会インフラと、ITシステムの融合を意味する。川村氏は、スマートフォンの普及などによって、インフラ管理・運用の効率化などが進むと考えた。また、川村氏のもとで日立はビッグデータの収集・分析とその利用などを念頭に、データセンター関連の事業にも取り組んだ。その後、景気対策としてのインフラ投資の効果やビッグデータの利用に注目が集まったことを考えると、川村氏は将来の展開を的確にとらえていた。