印刷・出版中堅の廣済堂は3月20日、村上世彰氏が関わる不動産会社と投資ファンドが、廣済堂に対してTOB(株式公開買い付け)を開始する報告を受けたと発表した。廣済堂は投資ファンドと組んでMBO(経営陣が参加する買収)を目指している。旧村上ファンド系の企業らがMBOに対抗してTOBを実施することになったわけで、廣済堂は乱気流に巻き込まれた。
TOBは村上氏の個人資産を運用する南青山不動産(東京・渋谷区)と投資会社レノが実施する。買い付け価格は1株750円で、買い付け期間は3月22日から4月18日まで。廣済堂株の3月20日の終値は737円(11円安)。高値は748円だった。
2社は共同で廣済堂株を3月20日時点で13.47%保有している。保有株比率が50%となる910万900株を下限として買い付ける方針だ。上限は設けていない。廣済堂はTOBに対する意見の表明はしていない模様だ。経営陣が反対する敵対的TOBに発展する可能性が高い。
南青山不動産は「既存株主に対して十分な株主価値向上の機会が提供されていない」と批判。買い付け価格をMBOより50円高い1株750円とした。
(文=編集部)
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東証1部上場の廣済堂は1月17日に発表したMBO(経営陣が参加する買収)に絡み、米ベインキャピタル系のファンドが実施中のTOB(株式公開買い付け)期間を延長した。
3月12日に応募を締め切ることになっていたTOB価格は1株610円。発表直前の株価を46%上回る水準だった。TOBが成立する応募の下限株数は発行済み株式の66.67%で、これに届かない場合はTOBを実施しない。
廣済堂株はTOB発表後に大きく上昇した。2月6日に一時848円の高値をつけ、TOB期間の延長を発表した2月26日の終値は738円。TOB価格を大幅に引き上げないかぎり応募が集まらずTOBは成立しないだろう。
2018年6月28日に開催された廣済堂の株主総会で土井常由氏が社長に就任した。同氏は慶應義塾大学経済学部卒業後、1978年に三井物産へ入社。三井石油の社長を務め、2015年に廣済堂の経営企画部長として招かれ、16年に取締役就任。そして浅野健社長の後任となった。
その土井氏は、乾坤一擲の大勝負に出た。米投資ファンド、ベインキャピタルと組んだMBOを計画したのだ。株を非公開にしたうえで主力の印刷事業の構造改革や迅速な意思決定を行うためにTOBを実施すると説明した。
旧村上ファンド系の投資会社レノの参戦で株価は急騰
TOBは乱戦模様だ。1月7日に関東財務局に提出した株保有の届け出によると、エイチ・アイ・エス創業者の澤田秀雄氏が会長を務める澤田ホールディングスが廣済堂株を12.4%保有する筆頭株主になった。
そこへ旧村上ファンド系の投資会社、レノが参戦した。会社側がMBOを発表した直後の1月22日から猛烈な勢いで買いを入れ、2月4日に財務省へ提出した大量保有報告書(5%ルール報告書)で5.83%の廣済堂株を保有していることを公表。レノは2月5日と8日にも変更報告書を出し、共同保有分を含めて保有株が9.55%になっていることを明らかにした。
レノが参戦すると、その会社の株価は急騰する。今までにもレノの“神通力”でTOB価格が引き上げられたケースがあるからだ。それを期待して廣済堂株も買われた。
レノの過去の“戦果”を見ておこう。マグロ運搬船を運航する東栄リーファーラインは17年11月、TOBによるMBOを打ち出した。買い付け価格は1株600円。レノなど旧村上ファンド系2社が株買いに乗り出したことで株価は上昇。41.6%しか集められず、TOBは不成立となった。
その後、18年2~3月に価格を800円に引き上げてTOBをやり直した。村上世彰氏と話し合い、東栄リーファーラインはMBOへの賛同を得て、TOBは成立した。村上氏はレノなど2社の親会社の大株主の立場だ。旧村上ファンド勢はTOB価格の引き上げを狙って株式を買い増し、経営陣に揺さぶりをかけた末に勝利した。
昨年末に日経平均株価が下落したこともあって、廣済堂のTOB価格は610円とかなり安い。レノは、これに目を付けた。まず、TOBを不成立に追い込み、その後、TOB価格の引き上げを迫る。そしてTOB価格が上がったところで売り抜けるというのが常套手段だ。