一方、ゼロックスは2月5日、21年12月期までの中期経営計画を発表した。ペーパーレス化で事務機器の需要は減退しているため、ビセンティン氏は「サービスやソフトウェア中心に事業モデルを転換する」と説明した。ここでも富士フイルムHDとの関係には言及していない。
共同出資する富士ゼロックス(富士フイルムHD75%、ゼロックス25%)からの商品供給などの契約は21年に切れる。
富士フイルムHDは買収交渉を継続するのか。それとも断念するのか。6月末の株主総会で、株主からの質問が集中することになるだろう。ここでも古森氏は答えず、助野氏が矢面に立たされる姿が見えてくるわけで、デジャヴ(既視感)が拭えない。古森氏は都合の悪い質問には自ら答えず、助野氏が代理を務めるのがお決まりだからである。
ドン・古森氏が久々に登場
古森氏は、決算発表でも好決算の時は表に出てきて“独演会”となるが、業績が足踏みしていると出てこない。ゼロックスの買収が事実上、“失敗”に終わっているのに、公式な記者会見は開いていない。そのため、ゼロックス買収の先行きについて、古森氏の話を聞けない。「助野社長は、社内では“庶務課長”のような存在」(富士フイルムHD関係者)といわれているため、助野氏に話を聞いたところで富士フイルムHDの意思は依然として不明のままなのだ。
その古森氏が3月12日、久しぶりにマスコミの前に姿を見せた。ゼロックスとの買収が暗礁に乗り上げてからは、日本経済新聞の単独インタビューに応じ、言いたいことを言うケースは2、3回あったが、公式の記者会見には出ていなかった。
今回は米バイオ医薬品大手、バイオジェンの製造子会社を約8億9000万ドル(約990億円)で8月ごろまでに買収するという案件。デンマークにある生産拠点や約800人の人員、複数の大手製薬会社との供給契約を引き継ぐという。「バイオ医薬品の開発・製造受託の生産能力(=事業規模)で世界2位グループに加わる」(3月13日付日経新聞)という。
古森氏は12日の記者会見で「(今後の事業の)コアが欲しい」と述べた。現在は事務機器事業が売上高の4割を占めるが、ペーパーレス化などで長期的な収益の確保が見込めない。将来的にバイオ医薬品を含むヘルスケア分野を売り上げの3割規模にしたいとしているが、バイオ医薬品分野の競争は激しい。
今回の買収で、富士フイルムHDはバイオ医薬品の製造受託事業の売り上げが700億円(現在は400億円)に増加すると説明している。従来は23年度としていた売上高1000億円の達成を21年度に前倒しした。バイオ医薬品の製造受託事業の世界トップは、スイスのロンザで1000億円規模。「業界1位が射程圏内に入ってきた」(石川隆利取締役)と、相変わらずイケイケムードだが、バイオジェンがデンマークの製造子会社を売りに出したのには、それなりの理由があるはずだ。
(文=編集部)