富士フイルムホールディングス(HD)の2018年4~12月期連結決算(米国会計基準)の業績は好調だった。しかし、肝心要の米ゼロックス買収は、1年以上経過しても実現していない。
富士フイルムHDの助野健児社長兼COO(最高執行責任者)が決算発表の席上、「双方の取締役会が全会一致で決めた契約の執行を求める」という、従来の主張を繰り返しただけだ。
富士フイルムHDによるゼロックス買収交渉の経緯を簡単に振り返ってみよう。
富士フイルムHDは18年1月末にゼロックスと、同社を買収することで合意した。富士フイルムHDが持つ富士ゼロックス株式(持ち株比率は75%)を対価に、ゼロックスに過半出資するというスキームだった。「新たな出資ゼロ」という枠組みに、著名な投資家のカール・アイカーン氏らゼロックスの大株主らが猛反発。「ゼロックスの価値を過少に評価している」と買収に反対を表明した。
ゼロックス側は18年5月、買収契約を結んだ経営陣が総退陣し、アイカーン氏らが推薦した経営陣と入れ替わった。新しい経営陣は買収契約を破棄。これに対し、富士フイルムHDは損害賠償を求めて提訴した。
その後、ゼロックスのジョン・ビセンティンCEO(最高経営責任者)は「富士ゼロックスと結ぶ、販売に関する既存の契約を期限以降は更新しない」と表明し、対立が激化した。
富士フイルムHDとゼロックスは対話不足との指摘が多い。富士フイルムHDの“ドン”古森重隆会長兼CEOが、アイカーン氏に直接、接触しないことが原因だ。これでは、ゼロックス側も動きようがない。
ゼロックスは米国時間2月5日に開いた株主向け説明会で、「富士ゼロックスは主要なサプライヤーだ」と述べている。事務機器をOEM(相手先ブランド)供給してくれる日本メーカーを探したが、事務機で国内首位のリコーもコニカミノルタも応じなかった、と伝わっている。事務機器を供給してくれる新しいメーカーが見つからない限り、富士ゼロックス、ひいては富士フイルムHDとの関係を清算しようがない。
訴訟の継続が足枷になっているとの指摘もある。
富士フイルムHDは、ゼロックスによる一方的な買収契約の破棄に対し、10億ドル(約1100億円)超の損害賠償を求め、18年6月に提訴した。だが、現時点で裁判所から具体的なスケジュールが示されておらず、宙ぶらりんの状態だ。
ゼロックスが起こした買収差し止め訴訟では、富士フイルムHDと当時のゼロックスの経営陣のやりとりが不公正と認定され、富士フイルムHDは一審で敗訴した。最終的に上訴審では判決が覆ったが、係争中であることが対話を阻んでいるのは確かだ。
助野氏は「(買収価格など条件面で)譲歩する考えはない」と、ずっと頑なな態度だ。
富士フイルムHDの業績改善が、ゼロックスを買収しようという気運を薄めているのは間違いない。18年4~12月期の売上高は1兆7998億円と横ばいだが、営業利益は前年同期比28.6%増の1583億円。複合機事業などを含むドキュメント事業の営業利益は82.2%増の669億円を達成した。
富士ゼロックスの構造改革が順調に進み、ゼロックスを買収する必要性が薄れている点は見逃せない。