財界の人材の払底ぶりは、かなり深刻である。
10月31日に2期6年の任期を終える日本商工会議所の三村明夫会頭(新日鐵住金名誉会長)が、2022年10月末まで続投することが決まった。日商会頭は東京商工会議所の会頭を兼ね、11月に開く臨時総会で異例の3期目に突入する。
しかし、3期目は鬼門である。00年2月には、3期目の続投を表明した76歳(当時)の稲葉興作・石川島播磨重工業(現IHI)会長に高齢批判が広がった。結局、稲葉氏は期限付き続投となり、01年7月に旭化成会長の山口信夫氏へとバトンタッチした。
一方、三村氏は78歳だ。もう1期務めれば81歳になる。過去に永野重雄氏(富士製鉄元社長・新日本製鐵元会長)が1969年9月から14年半にわたって日商会頭を務めた前例はあるが、2期が慣例になってからは3期務めた人物はいない。東京商工会議所は97年に会頭任期を2期6年とする内規を定めている。
三村氏は「慣習を破る心理的な抵抗はあった」としつつも、「東京23区の全区長から続投してくれと強い要望があり心を動かされた」と、3期目に強い意欲を示している。
三村氏の周辺に続投を希望する声があったのは事実だ。「歴代日商会頭19人のなかでも、情報発信力は抜群。誰が後任になっても三村氏と比較されるから、自ら手を挙げる経営者はいない」(日商副会頭)といわれている。それでも「高齢な三村氏に頼り切っていいのか」(元副会頭)との慎重な見方もあった。
日商の関係者は、3期目突入の内幕をこう語る。
「2、3社に打診したが断られた。日商に貢献している業種は総合商社だが、三菱商事も三井物産も副会頭まではやってもトップはやらない。小売りは高島屋の鈴木弘治会長が留任して、実質トップのままで日商会頭に就任するのは無理。資生堂の前田新造相談役という線もあったが、資生堂の魚谷雅彦社長が財界活動にあまり熱心ではない。会頭をやるということは、会社としてカネを出すことになるからだ。とりあえず、今年11月の交代期は三村さんで乗り切って、次の会頭を探すということに落ち着いた」
他方、3期目はまるまる3年ではなく、東京オリンピック・パラリンピックが終了した時点で交代もあり得るのではないかと見る向きもある。
経団連も後任の適任者不在
財界は、どこもかしこも人材難である。これは、という人材がいない。
日本経済団体連合会(経団連)は今春、副会長6人が交代する。新たに内定した6人の出身企業は、前身を含めれば過去に副会長を出した企業ばかりで、“初顔”はゼロ。正副会長の平均年齢は、新任6人を含めると67歳。一番若くても63歳だ。
18年5月に中西宏明・日立製作所会長が経団連会長に就任したが、“中西カラー”は今回の副会長の人選では出なかった。
「コマツは猟官運動をやらなかった唯一の企業。下馬評にも上がらなかったが、大橋徹二社長が副会長になった」(経団連の元副会長)
経団連の会長は製造業出身者という“暗黙の内規”にいつまでもこだわってはいられなくなってきた。というのも「豊田章男・トヨタ自動車社長は経団連会長をやる気が、さらさらない」(トヨタ自動車の関係者)ことが大きい。パナソニックの津賀一宏社長も、「経営の立て直しに全精力を注いでいる。経団連どころではない」(パナソニックの元役員)ようだ。
つまり、自動車・電機から“ポスト中西”が見当たらないのだ。もし、選出のルールにこだわるなら、次期経団連会長の有力候補は大橋氏と、同じく副会長に就く三菱ケミカルホールディングスの越智仁社長ということになるかもしれない。大橋氏は「異論を言えるし、明るい性格」(財界首脳)と評価されている。
(文=編集部)