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スタバ開業にコンビニコーヒー…コーヒー消費量激増と「平成」、「レトロ」だけの店は潰れる

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
スタバ開業にコンビニコーヒー…コーヒー消費量激増と「平成」、「レトロ」だけの店は潰れるの画像1バリスタトレーナーの阪本義治氏(右)

 まもなく新しい元号が決まるが、「平成時代」はコーヒー業界・カフェ業界に、革新が起きた時代だった。喫茶店の数は半減したが、コンビニコーヒーが一大勢力となり、カラオケボックスや自動販売機など、いたるところでコーヒーは必需品となった。最高級のコーヒーを扱う新たな職種も生まれた。本稿の前半は「業界」、後半は「個人」に焦点を当てて、さまざまな「コーヒー最前線」を紹介しよう。

消費者意識が変わり、コーヒー輸入量も拡大

 まず紹介したいのは、コーヒーに対する意識の違いだ。昭和時代までのコーヒーには、「飲むと胃が荒れる」といったネガティブイメージも強かった。だが現在は「生活習慣病の予防につながる」など健康機能性も次々に報告され、ポジティブな飲み物となった。とはいえ、個人差やマイナス面もあるので、摂取には注意していただきたい。

 女性がここまでコーヒーを飲むようになったのも、平成時代の特徴だ。これには「女性の社会進出」(平成元年は「男女雇用機会均等法」の4期生)、「スターバックス」の人気(平成8年に日本1号店が開業)、「カフェブーム」(平成12年頃に起きた)などの複合要因がある。その結果、男性が好む飲み物から、誰もが親しむ飲み物となった。

 こうした時代性の風にも乗り、コーヒーの消費量は拡大した。比較しやすいコーヒー輸入量「生豆換算」で見ると、1990年は「32万4841トン」 だったが、 2017年には「45万8961トン」となり、約30年で1.4倍、約13万4000トンも増えた(出所:総務省統計を基にした全日本コーヒー協会のデータ)。「デカフェ」のようなカフェイン抜きのコーヒーも増えて、消費者の嗜好は多様化した。

「スペシャルティコーヒー」を扱う職人と指導者

スタバ開業にコンビニコーヒー…コーヒー消費量激増と「平成」、「レトロ」だけの店は潰れるの画像2指導する阪本氏

 そもそもコーヒーは「3たて」と呼ぶ、「炒りたて・挽きたて・淹れたて」が一番おいしいといわれる。これを全自動の機械で実現したのが、セブン-イレブンに代表される「コンビニコーヒー」で、市場規模は2000億円を突破した。これら100円前後のコーヒーで使用する豆は「スタンダードクラス」という高くない豆だが、焙煎や抽出を工夫することで一定の味を実現した。

 これに対して、収穫量全体の3%程度しかない高品質なコーヒーを「スペシャルティコーヒー」と呼ぶ。甘さや酸味、口に含んだ時の質感など、コーヒーの味を体系化した指標も定められ、2003年には日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)が発足した。コーヒーの淹れ方などの技術を持つ職人は「バリスタ」と呼ばれるようになり、国内でSCAJが運営するバリスタ競技会も盛んになった。国内大会の優勝者は世界大会に出場し、日本は強豪国のひとつだ。

スタバ開業にコンビニコーヒー…コーヒー消費量激増と「平成」、「レトロ」だけの店は潰れるの画像3指導する阪本氏

 そうしたバリスタを指導するコーチは「バリスタトレーナー」ともいわれる。阪本義治氏(アクトコーヒープランニング代表取締役)はバリスタトレーナー・コーヒーコンサルタントとして多彩な活動を行う第一人者だ。昨年10月12日付当サイト記事『全自動コーヒー抽出器「FURUMAI」が密かにブーム…有名バリスタたちのノウハウ凝縮』でも取り上げたが、今回は同氏の活動を通じて、特別なコーヒーの一端も紹介したい。

2019年の前半は海外出張を繰り返す

スタバ開業にコンビニコーヒー…コーヒー消費量激増と「平成」、「レトロ」だけの店は潰れるの画像4パナマ・ゲイシャ

「今年は2月から5月までの4カ月で約50日、年間では100日近くを海外で過ごす予定です。特に4月11日から14日まで、WBC(ワールドバリスタチャンピオンシップ)の世界大会が米国ボストンで行われるので、日本代表のコーチとして帯同します。終了後はブラジルに移動し、セミナーの講師を務める予定です」

 最近の予定を、阪本氏はこう話す。話を聞いたのは3月中旬の東京都内だが、本稿執筆時は南米のパナマに滞在中。海外出張の目的はさまざまだ。取引先の関係者と一緒に、厳選したコーヒー豆を生産する農園に行くこともあれば、バリスタと一緒に世界大会に臨むこともする。コーヒーコンサルタントの時と、バリスタトレーナーの時があるのだ。

 近年のコーヒー業界でもっとも注目され、世界中の品評会で大人気の「パナマ・ゲイシャ」(パナマ産のゲイシャ品種)という最高級コーヒー豆がある。この研究も阪本氏の活動の一端だ。今年から「ベスト・オブ・パナマ」(パナマのコーヒー品評会)の審査員(国際審査員)も務めるが、「ゲイシャ」の歴史や栽培手法を現地の農業機関や生産者に取材。2017年には専門誌「カフェレス」(旭屋出版)の特集記事にもなった。つまり、最前線のコーヒーの味だけでなく、その背景も探ってきたのだ。この探求心も「成績」に結びつく。

スタバ開業にコンビニコーヒー…コーヒー消費量激増と「平成」、「レトロ」だけの店は潰れるの画像5バリスタと阪本氏

 2018年のバリスタ国内選手権(JBC)では、決勝に残った6人のファイナリストのうち、優勝した山本知子氏(「ウニール」ヘッドバリスタ)をはじめとする4人は、阪本氏の指導を受けた。4月のボストン出張は、日本代表として出場する山本バリスタのコーチとしての活動だ。2014年に井崎英典バリスタ(当時は丸山珈琲)がWBCでアジア人初の世界王者に輝いたが、その優勝に導いたコーチが阪本氏(当時は同じ会社に所属)だった。

「人」と「味」の最高を引き出す

スタバ開業にコンビニコーヒー…コーヒー消費量激増と「平成」、「レトロ」だけの店は潰れるの画像6コーヒー畑

「バリスタトレーナー」という職種の歴史は、まだ十数年と浅い。コーヒー職人が「バリスタ」と呼ばれて国内外で技術を競うようになると、それを指導する人材も必要となり、生まれた。だが現在、この職種の人は一定数いるが、阪本氏に匹敵する存在はいない。

「ほとんどのバリスタトレーナーは企業に属しており、社内のバリスタ育成が主な仕事です。会社員ですから人事異動で別の部署に移ることもある。それに対して私は、競技会で勝たせるのが役割です。成績を出さないと、次のオファーはありません」

 ちなみに、契約はバリスタ「個人」とではなく、「会社対会社」として行う。トップレベルのバリスタのなかにも、阪本氏を評価する人は多い。そのひとり(30代)は、こう話す。

「社内にも私たちを指導するバリスタ監督がいますが、阪本さんはもっと実践的な指導をしてくれます。『競技会で使う予定のビバレッジ(飲料)には、この味を用いたらどうか』とか、『プレゼンテーションでは、この部分を強調しろ』といったことですね。教え方には、厳しさもあれば温かさもあります」

 現在も20代から40代までのバリスタが多数指導を仰ぐ。その功績が認められ、阪本は外食産業記者会が選ぶ「外食アワード2017」を中間流通・外食支援者部門で受賞した。

「コンサルタント」の役割も変わった

 一連の実績が評価されて、最近の阪本氏の仕事は多彩だ。前述の記事で紹介したコーヒー抽出器「FURUMAI」(フルマイ)の開発・監修もそのひとつだが、流通のプロジェクトチームに加わり、一緒に新事業にかかわることも多い。

「コーヒーの世界はイノベーションが次々に起きます。『パナマ・ゲイシャ』は2000年代になって脚光を浴びた品種です。焙煎は、以前は『深煎り』が主流でしたが、現在は豆の特性を引き出す『浅煎り』が世界的な傾向となりました。もちろん品種や栽培方法などによっても焙煎や抽出は変わります。それを追い続けていかないと、最新の味は語れません」(阪本氏)

 阪本氏の活動を観察すると、「コーヒーコンサルタント」の役割も変わってきたと感じる。以前は、店の開業を支援するコンサルタントが目立ったが、かつてほどのニーズはない。ネット社会の進展で、一定の情報が手に入るようになったことも理由のひとつだろう。

 これから求められるのは、「新しい価値」を打ち出せる人だろう。コンビニコーヒーは「1杯100円で一定のおいしさ」を実現し、パナマ・ゲイシャは「1杯3000円」でも注文が入る商品になってきた。個人経営の店が大手チェーン店と対抗するためにも、店の主力商品となる「コーヒーとコーヒー豆を多く売る」ことを目指さないと生き残れない。

「切り口を磨く」時代

 コーヒー業界は、大ベテランでも仕事ができる(できた)業界だが、今後はどうか。筆者は戦後の喫茶業界の歴史も見てきたが、昔の経験に固執していると、次世代のお客は獲得できないと思う。「昭和レトロな喫茶店」も、味が昭和レトロのままでは、味にうるさい現代の消費者をリピーターにはできない。「当時の味を現代風に再現」する必要がある。イノベーションには、切り口の斬新さや付加価値の訴求も含まれるのだ。

 コーヒーに対する消費者の舌も、平成年間で間違いなく肥えた。もし、「ウチの店はコーヒー通を相手にしていないから、味はそこそこでいい」と思う経営者がいたとしたら、「“そこそこ”のレベルも上がった」ことを再認識したほうがいい。

「ぬるま湯」に安住すると、変化に気づかず“茹でガエル”になるのは、どの業界も同じ。平成の次の時代は、「逃げ切り」が許されない時代となりそうだ。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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