どのような規模であれ、年々、企業の数が減少している。その理由については、さまざまに論議されているが、主なものは次のようなところだろう。
・想像のつかない、不確実な出来事の頻度が上がった(コロナ、天災、テロなど)
・モノが溢れ、人々の興味のサイクルが早くなった
企業が生き残るには、不確実な出来事や急速に変化する人の興味のサイクルに対応しなければならない。そのために、計画的に物事を構築していくよりも、臨機応変さを高め、不確実な出来事に対応できる“偶然を活かす経営”が重要になってきた。
そこでこの連載では、偶然を活かし成功した企業、たとえばリーバイスやコカ・コーラといった企業の事例を交えながら、偶然をビジネスに活かしていく方法を紹介していこう。
中小企業白書2020年版によると、1999年には企業数が485万社(個人事業者含む)だったが、2001年は470万社、2009年は421万社、2016年は359万社と、1999年からの17年間で26%も減少している。これは、大企業、中規模企業、小規模企業でも同じように減少傾向なのだ。
昨今、「偶然を活かすことが成功には不可欠」ということをよく目にするようになった。
成功した経営者などの話を聞いたり本で読んだりすると、なるほどと納得することは多いが、彼らを真似しようとしてもうまくはいかない。成功した経営者であっても、新しいビジネスを立ち上げて、また同じように成功できるかというと、そうでもないのだ。
ある説によると、成功した企業の多くが、偶然による成功だという。成功した後に、「あれをやったから成功した」「こう考えていたから成功した」と、まるで成功の法則があるかのように後付けで説明しているうちに、あたかもそれが真実の「成功法則」かのように広がるというのだ。
本当の成功は、巷に溢れる「成功法則」に従うよりも、偶然を引き寄せたほうが確率は高くなる。かみ砕いて要約すれば、「失敗しても、挑戦し続ければ、いつかは当たる。やり続ければ、偶然も引き寄せる」ということで、これが本当の成功法則なのだ。誰もが知っているコカ・コーラ社やリーバイス社なども、実は偶然によって成功した企業だ。
成功する人は偶然を味方にする
物事が起こった後、それが予測可能だったと考える傾向を、心理学では「後知恵バイアス」と呼ぶ。社会学者のダンカン・ワッツは、めったにない成功が起こった時は、さらにこれが強く働くと主張した。そして、ほとんどのケースで、成功が必然であるかのように説明するという。
だが、現実にはすべての出来事は、小さな出来事が複雑に絡み合った結果だ。それにもかかわらず、成功した人は他人から「なぜうまくいったのか?」と聞かれ、自分の思い込みをどんどん話しているうちに理路整然と説明するようになり、本人もそのおかげで成功したと思いこむようになる。
これは、宝くじも同じだ。当せん者が他人から「なぜ宝くじが当たったの?」と聞かれ、「雨の日の次の日が良い」「くじを買う前に花を買い、生物に感謝することが幸運を引き寄せる」などと話しているうちに、もともとは偶然だったはずなのに、さも法則があるように思いこんでくる。
世界でもっとも有名な絵画のひとつ「モナ・リザ」は、かつてほとんど世に知られていなかった。有名になったのは、盗難事件がきっかけだ。
1911年、フランスのルーヴル美術館が保有していた「モナ・リザ」が盗まれた。しかし、2年後の1913年、犯人がイタリアのフィレンツェの美術館に「モナ・リザ」を売ろうとしたところを逮捕され、事件は解決をみた。
ところがイタリア人たちはこの犯人を、絵画を本国に返そうとした“愛国者”として称賛した。フランス国民は強い衝撃を受け、そしてこの事件を世界中の新聞が取り上げたことで、「モナ・リザ」は世界的名声を得た最初の美術品となった。その時以来、西洋文化自体をも代表する作品になったのである。偶然に起きた盗難事件が、「モナ・リザ」を有名にしたのだ。
次回は、「偶然を活かし、事業を飛躍させた企業の事例」を紹介しよう。
(文=野田宜成/株式会社野田宜成総合研究所代表取締役、継続経営コンサルタント)
参照:『成功する人は偶然を味方にする 運と成功の経済学』(ロバート・H・フランク著、日本経済新聞出版)