東芝は6月1日、米国の液化天然ガスの(LNG)事業を仏エネルギー大手、トタルに売却すると発表した。譲渡価格は1500万ドル(約17億円)。
国際石油資本(メジャー)の一角を担うトタルのシンガポール子会社へ、2020年3月末までに売却する。「ブルームバーグ」の報道によると、東芝はLNGの引き取り義務を引き継いでもらうための費用として、トタルに8億1500万ドル(約912億円)を支払うという。東芝は20年3月期決算に売却関連費用を含めて約930億円の損失を計上する。実際は900億円超の“手切れ金”を払う取引である。
前向きに捉えるなら、米国テキサス州のLNGプロジェクト「フリーポート」は、想定されていた1兆円規模の損失を、930億円の出血で抑えることができることになる。
迷走を続けたLNGの売却計画を振り返ってみよう。
東芝は4月11日、撤退を決めていた米国でのLNG事業の売却が、白紙になる可能性が生じたと発表。10日夜に、売却先の中国のガス会社、ENNエコロジカルホールディングスから、売買契約を解除する意向を伝えられたという。
18年11月に発表した経営再建計画で、LNG事業からの撤退を明記。ENNに約930億円を払って引き取ってもらう売買契約を結んだ。今年3月末までに売却手続きを終える予定だった。
ところが、米国の対米外国投資委員会(CFIUS)の承認や中国の国家外貨管理局(SAFE)の認可が得られなかったことに加え、契約の一部についてENNの臨時株主総会で承認を得られなかったことを契約解除の理由に挙げているという。
市場関係者は当初から東芝とENNとの譲渡契約に懐疑的だった。東芝がLNG事業の譲渡契約を発表した18年11月は、“米中貿易戦争”の真っただ中にあった。東芝がフリーポート売却に当たってENNに米国の子会社の株式を譲渡するには、対米外国投資委員会の承認が必要になる。
東芝は承認を得られると楽観していたが、アナリストたちは「承認を得るのは厳しい」と疑問視した。そして案の定、承認を得られなかった。
最大1兆円近い損失が見込まれる事業のため、売れなければ経営再建計画の見直しを迫られるのは必至となる。米LNG事業からの撤退は、東芝の生き残り策の柱だった。東芝はENNに対して契約解除を通知し、新しい“受け皿”探しを再開した。
原発がダメになり、シェールガスに飛びついた
東芝は、経営破綻した米原発メーカー、ウエスチングハウス(WH)の関連資産の売却を18年7月末で終了した。06年に買収してから12年。計1.4兆円もの巨額損失につながったWHとの関係に、やっと区切りをつけた。巨額損失を穴埋めするために、高い収益力を誇る半導体メモリー事業の売却を余儀なくされた。
だが東芝は、原発事業以外にも巨額損失を生みかねない「爆弾」を抱えていた。それが米国で手掛ける液化天然ガス(LNG)事業だった。