日産自動車は5月17日、6月25日に開催する定時株主総会へ向けた人事案を発表した。
新しい取締役候補は11人。筆頭株主のルノーから経営トップ2人を迎え、日産の生え抜きと同数になった。残る7人は社外取締役で、全体の過半数を占める。
ルノーからはジャンドミニク・スナール会長(日産取締役)が続投。新たにティエリー・ボロレCEO(最高経営責任者)が加わる。ボロレ氏の取締役就任はルノー側の強い要求で、これを日産が受け入れた。
日産側は西川廣人社長兼CEO、山内康裕COO(最高執行責任者)の2人。5月16日付でCOOに就いた山内氏が新たに取締役となる。
西川氏の続投に関しては、検討段階で「ゴーン前会長の不正を見過ごした責任を問う声が出た」(日産の元役員)という。
新たな取締役候補を選ぶ「暫定指名・報酬諮問委員会」の井原慶子委員長(日産の社外取締役で新体制でも留任)は「不正の看過、検査不正、業績悪化について責任を問う声もあったが、経営の継続性を考えた」と述べた。「ルノー、三菱自動車とのアライアンス強化という面で(西川社長続投は)ふさわしい。刷新するのはリスクがある」(同)と判断したという。
井原氏はボロレ氏が日産の取締役に就任することについて「日産の自立性を阻害しないか、十分に検討した。ボロレ氏は(日産の)代表権もなく、執行権もない。(ゴーン被告に権限が集中した)以前とはまったく違う」と説明した。
西川氏の続投とボロレ氏の役員就任は、「日産・ルノーの妥協の産物」との見方が強い。「ギブ・アンド・テイク」と関係者は言う。日産はルノーとの交渉を担ってきた西川氏を交代させたくないと考え、ルノーに同氏の続投を承認してもらう代わりに、ボロレ氏を受け入れたというのだ。
では、西川体制はいつまで続くのか。「2020年3月決算の中間決算がまとまる今年秋まで」と、ルノー及びフランス政府は考えているフシがある。2019年9月中間決算の業績がさらに悪化すれば、「西川社長の責任論が日産社内からも再び出てくる」(日産関係者)とみられているからだ。
日産とルノーの提携協定には、ルノーから迎える取締役は日産の生え抜きを1人下回る「nマイナス1」というルールがある。ルノーの過度の経営干渉を防ぐ狙いだ。日産にとって対ルノーの「切り札のひとつ」なのに、今回の人事では適用を見送った。“来るべき日”に備えて力を温存したと前向きに評価できるかどうかは、今後の日産の経営方針の決定の過程で明らかになろう。