13年、米テキサス州のフリーポート社との間で、年220万トンのLNGを19年からの20年間引き取る「液化加工契約」を結んだ。ここに大きなリスクが隠れていた。
LNGの日本国内などでの買い手が決まらず、引き取れなかったとしても、フリーポート社に毎年400億円超を払い続けなければならない。フリーポート社が担うのは天然ガスを液化する業務だけでガスの調達や買い手探しは東芝の責任だ。安い値段を提示すれば買い手は見つかるが、売れば売るほど赤字になってしまう。
16年3月期の有価証券報告書で「電力・社会インフラ部門」の想定最大損失額を9713億円とした。大部分がフリーポート事業にかかわるものだ。つまり、LNG事業は、将来的に1兆円の巨額損失リスクがあると東芝自体が認めたことになる。
なぜ、こんなにリスクの大きい事業に手を出したのか。11年3月11日、東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所事故で、日本ではすべての原発の稼働が停止した。火力発電が急拡大し、燃料費が高騰した。そこで東芝は、原油やほかの天然ガスと比べて安い米国産シェールガスに飛びついたのだ。
米国産のシェールガスをフリーポート社の大型プラントで液化し、日本にタンカーで運ぶ。低価格を武器に、発電システムとセットで電力会社などに売り込む計画を立てた。
フリーポート社と契約したとき、エネルギー業界では「素人の東芝が、リスクの高いLNGに、なぜ手を出したのか」と驚きの声が上がったが、その不安は的中した。原油価格が下落し、在来型のLNGも安くなったため、東芝が調達を予定した米国産シェールガス由来のLNG価格は割高になってしまった。
それでも東芝は、東京電力などが新しい火力発電所の建設計画を進めており、そうしたところが米国産のLNGを引き取ってくれると楽観視していた。だが、割高なLNGを引き取る電力会社はなかった。東芝は慌てて国外で引き取り手を探したが、米国や豪州で増産が続くLNGは世界中で供給過剰の状態で、買い手は見つからなかった。
売却中止で930億円の損失は計上せず
18年4月、東芝に乗り込んできた三井住友銀行出身の車谷暢昭会長兼CEO(最高経営責任者)は、リスクを避けるためにフリーポートの売却を決断した。だが、フリーポートの契約は20年と長い。ENNの株主も、この長期契約に「リスクは大きい」と判断したようだ。
19年3月期の連結純利益(米国会計基準)は前期比26%増の1兆132億円だった。東芝メモリ(現東芝メモリホールディングス)の売却益を約9700億円計上。一方、米LNG事業売却に伴う930億円の売却損を見込んでいたが、売却を取りやめたため計上しなかった。
20年3月期の売上高は前期比8%減の3兆4000億円、営業利益は同3.9倍の1400億円を見込む。「今期中の売却を目指す」(会社側)米LNG事業の成り行きが不透明なため、最終損益は「未定」とした。米LNG事業の売却損の規模次第では、赤字の可能性がある。
米LNG事業は、毎年200億円の損失が出る状況が続く。昨年の譲渡交渉で登場した石油メジャーの米エクソン・モービルや英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルなどの名前が再び挙がっていたが、トタルで決まった。
昨年11月、23年度に営業利益率10%を目指す中期経営計画「Nextプラン」を発表、再生に向けてスタートを切った。Nextプランは20年間のリスクを抱えるLNG事業を切り離すことが前提で、売却は必須課題だった。その売却先が、ようやく見つかった。
(文=編集部)