アマゾンのYouTube公式チャンネルより
昨年、ユニクロが国内で初めて自社のホームページ以外でインターネット通販を始めたことが話題になった。三井不動産が運営する三井ショッピングパークの公式通販サイト「アンドモール」だ。また、昨年アマゾンがスターバックスと共同でのリアル店舗を、米ニューヨークで第1号店としてオープンした。アマゾンは、さらに今年に入って、初めてアパレルのリアル店舗である「アマゾン・スタイル」をロサンゼルスに出すとも発表した。
この3つのトピックスに共通するキーワードは、小売業+ネット通販+リアル店舗だ。深掘りすると、消費者がどこででもモノを買えるようにする「オムニチャネル」が、またさらに一歩進んだ形だ。
まず、ユニクロが出店したアンドモールの特徴は、ららぽーとやアウトレットの各店舗にある「在庫を発送する」という点。リアル店舗を持っている企業がインターネット通販をする場合、通常は別な場所に倉庫を持ち、そこに在庫を積むのだが、その必要がない。ユニクロのように製造と販売が一体になっているSPAというビジネスモデル(仕組み)の業態の企業には、通販用の在庫を持って売れなかった時のリスクが減るという意味で、ありがたいネット通販のかたちだ。
ユニクロにとってみると、アマゾンや楽天のような巨大なプラットフォーム上で販売をすると、自社で顧客のリストを管理することができない上に、プラットフォーマー側への手数料がコストとしてかかることを避けることができる。さらに、アマゾンで売る場合はアマゾンの倉庫への物流費がかかるし、楽天の場合は、自社で別途発送するのでその管理をしなければならない。
一方で、自社の通販サイトだけでは新しい顧客を得ることが限られるので、他社のサイトからの顧客獲得や、店舗で買えなかった分をそのままネットで買えるような仕組みをつくりたかったはずだ。
このような状況下で、今回のこのアンドモールの仕組みを使うことによって、ららぽーとなどに入っている自社の店舗から直送ができることは、在庫管理、コスト抑制の意味からも有意義だったのであろう。
アマゾン・スタイルの取り組み
アマゾンとスターバックスの共同店舗もユニークだ。アマゾンの技術を使って、レジの行列に並ばなくても買い物ができるようにしたとのこと。すでに展開されているAmazon GOの仕組みで、あらかじめアプリを入れておけば、その店に入り商品を自分のバッグに入れて、レジを通ることなく、そのまま店を出れば、その時に自動的にアプリ上で支払いまで終わっているというものだ。
この店に入る時には、スマホに入れたAmazon GOのアプリをスキャンする「アマゾン・ワン」という仕組みを使うか、またはクレジットカードを利用して入店する。品揃えは、スターバックスのメニューに加えて、Amazon GOの商品も並んでいる。朝ごはんや、ベーカリー、サンドイッチなど、メニューの選択肢も多い。
店内にはちょっとしたワークスペースと、電源コンセント、USBポートが備わった大型のテーブルがあり、短時間で買い物を済ませたい人だけではなく、座ってゆっくりしたい人のどちらにも、対応できるようになっているようだ。
冒頭で紹介したアマゾン初のアパレルのリアル店舗「アマゾン・スタイル」は、店内の様子が動画で紹介されている。
通常のアパレル店舗のように服がディスプレイしてあり、お客様は触ったりしながら見ることができる。通常のお店と違うのは、店頭での接客はアプリや試着室のタッチパネルで対応するという点だ。店内でお客はまず、良さそうな服を見つけた時に、アマゾンのアプリでサイズや色の種類、カスタマーレビューを見ることができ、試着なしで買う時は、その場でアプリを通して買うことができるようだ。試着したい場合は、ユニクロやギャップにあるような試着室がずらっと並んでいて、アプリに表示された自分の番号の試着室が自動的に用意される。
そしてその部屋の中には、タッチパネルがある。そこには、「ようこそセレーナ」と画面に名前が出る。パーソナライズだ。そこで、お客様が店内でリクエストしたアイテムの、色違いを選べたり、好みにマッチするような商品も推薦してくれる。これにより、お客様は試着室から離れなくても、買い物を続けることができる。
メタバース時代も視野に
アマゾンの小売部門はネット通販が中心の会社だ。一方で、数年前からアメリカでは書店やネットで売れているランキングの人気商品を集めた店舗もある。そして今回は、スターバックスとの共同店舗に加えて、アパレルのリアル店舗を出店すると発表した。
もちろんアマゾン・スタイルでも服を売りたいのだろうが、それ以外の狙いもいくつかあるだろう。まずは、アマゾンの生命線である顧客データだ。リアルの店舗では、どんな顧客がどんなものを欲しいのか、売れ筋はネットとは違うのか? という、これまでは入手できなかった顧客の購入のデータが入手できる。いくら便利になっても、ネットとリアルでは買うものや使う金額も違うため、アマゾンにとってはその傾向を知ることは重要だろう。
また、ネット通販は触ることや試着することができないのが弱点なので、そこを補うこともできる。メタバースはこれから急速に進化するだろう。こうなるとアバターでの買い物は日常になる。アマゾンはそのあたりの準備も万全だろうが、このアマゾン・スタイルではアパレルショップでの顧客行動を知り、そこから“自社のアバター”での接客も考えていると予測される。
オムニチャネル
人が何かを買う時は、探して、買って、受け取る。だが消費者は、「今回は絶対ネットで買う」などと決めず、ネットで探してリアルで買って、自宅で受け取る、などと自分に一番ピッタリした方法を選びたい。服などはサイズや色もあるので、なおさらだ。アマゾンは、このような消費行動のチャネルシフトが発生するという仮説を立てているに違いない。これはユニクロも同じだ。
リアルでもネットでもどこででも探すことができ、どこででも買うことができ、どこででもその品物を受け取ることができるようにする。これをオムニチャネルと呼ぶ。ちなみに、オムニとはラテン語で「全ての」という意味だ。メタバースが浸透すると、この流れは一気に加速されるだろう。アマゾンとユニクロは奇しくもこのあたりに手を打っている、と感じられる事例だ。
オムニチャネルを考える際に、気をつけるべき点のひとつは、「どこで売るか?」という企業主体の旧来の考え方ではなく、「顧客が便利に買えるか?」という顧客課題が主体の発想になることだ。顧客はネットで買いたいのでもリアル店舗で買いたいのでもなく、“便利”に買いたいと思っている。この発想の転換ができる企業しか今後は生き残ることができない。
顧客のニーズが出た時に、何を考え、どんな行動をするのか? 真実の瞬間“Moment of Truth”はどこか? そこで何ができるか? というカスタマージャーニーを、正しい仮説を持って構築できるかどうかが、売れるかどうかの分かれ目になるのだ。
(文=理央 周/マーケティングアイズ代表取締役、売れる仕組み研究所所長)