アマゾン、ファッション実店舗の全貌…圧巻の最先端システム、ユニクロ等の脅威に
アマゾンのYouTube公式チャンネルより
2021年8月に米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、アマゾン・ドット・コムが複数の百貨店業態のリアル店舗を展開する計画があると報じていた。しかし今月20日にホームページ上でファッションに特化したリアル店舗「アマゾン・スタイル」を、ロサンゼルスのショッピングモール「アメリカーナ・アット・ブランド」に年末までにオープンすると発表。倉庫を含めた店舗面積は約2,800平方メートルで、アパレル、靴、アクセサリー類を販売する。
ニューヨーク・タイムズによると、アマゾンの世界流通総額(GMV=Gross Merchandise Value)が米小売り最大手のウォルマートを初めて抜いたという。21年6月末までの1年間でアマゾンの流通総額は6100億ドル(約67兆円)だった。そのなかでも衣料品分野で業績を伸ばしている。
米銀大手ウェルズ・ファーゴによると、アマゾンはすでに米国最大の衣料品小売業者である。オリジナルブランドも100以上を展開している。20年の衣料品と靴を合わせた販売額は前年比15%増の410億ドル(約4兆5100億円)。21年は同約10%増の450億ドル(約4兆9500億円)超になるとウェルズ・ファーゴは予測している。まさにガリバーであるが、今回発表されたリアル店舗展開の狙いを考えてみたい。
1.発表されたリアル新店舗の機能
「Amazon Style(アマゾン・スタイル)」のHP上に公開されているリアル店舗映像を見てみると、店内には多様なブランドのアイテムがゆったりと展示され、展示商品は公式オンラインストアとすべて共有されている。顧客はアイテムごとのQRコードをアマゾンショッピングアプリでスキャンし、サイズや色、レビューといった詳細情報をその場で確認できる。
映像で見る限り、面倒な接客もなく、気に入ったアイテムが見つかればQRコードを読み取った後に表示される試着ボタンをタップすると、試着アイテムと試着室の予約となる。試着室は40室あり、パーソナル空間と呼べる快適な広さとタッチパネルディスプレイが備えつけられている。選んだアイテムが試着室に用意されると通知が届き、試着室番号が案内される。試着室のキーもショッピングアプリで解錠するシステムである。
試着室には予約したアイテムだけでなく、顧客がこれまでアマゾンで利用してきたデータに基づいてピックアップされた推薦アイテムも用意され、着数の制限もない。オフラインの最大の課題であった試着を快適な体験に進化させている。備え付けのタッチスクリーンでアイテムの評価や他のアイテムのリクエストも可能な上、希望したアイテムは数分で併設されている倉庫から試着室へと送られる。
これら一連の流れは、フルフィルメントセンター(アマゾンの配送用倉庫で物流の拠点となる)の技術やプロセスで可能となる。ショッピングのデータはオンラインストアとリアル店舗双方で共有され、相互に連携する。
リアル店舗での試着履歴はオンラインストアにも反映され、自宅での決済処理と配送も可能だ。リアル店舗には販売員とショッピングカウンターも用意されているので、一般的な店舗のようにそのまま商品を持ち帰れる。「アマゾン・ワン」と呼ばれるレジなし決済や手のひら認証などの最新IT決済を導入し、レジ待ちのストレスも排除している。オムニチャネルと呼ばれるオンラインとオフラインの融合である。
また、購入、試着履歴により購入者はより自身の好みにあったアイテムのリコメンドも受けることができる。EC化を急ぐファッション業界だが、ZARAやユニクロを脅かす存在は同業者のみではなくなりつつあるのは確実である。
2.アマゾン・ドット・コムのリアル店舗展開
アマゾンのリアル店舗展開は15年、本社のあるワシントン州シアトルに対面販売方式の書店「アマゾン・ブックス」を開店したのが最初だった。17年には高級スーパーマーケットチェーン「ホールフーズ・マーケット」を137億ドル(約1兆5000億円)で買収。このほか、新業態開発として無人コンビニエンスストア「アマゾン・ゴー」や食品スーパー「アマゾン・ゴー・グローサリー」「アマゾン・フレッシュ」、ネットの売れ筋商品をそろえた「アマゾン・4スター Amazon 4-star」、美容室「アマゾン・サロン」などを実験的に展開。レジなし決済や手のひら認証などの最新ITを導入した店舗を展開している。
しかし、アマゾンのリアル店舗展開は、その都度大きな話題にはなるが、必ずしも順風満帆とはいえない。どの新業態もスクラップアンドビルドが続いている。ただ、挑戦する姿勢に変わりはない。
ウォルマートは全米に張り巡らせた自社店舗をハブとして、EC売上額を大きく伸長させている。コロナ禍があったとはいえ、消費者の購入行動はオフラインだけでは完結しないことの証左といえる。現時点ではアマゾンのリアル店舗運営のノウハウは、やはりウォルマートなどの歴史あるリアル店舗運営企業と明確な差がある。
そのため、アマゾンは今後もリアル店舗企業のM&Aを虎視眈々と狙っているのではないか。企業規模や手元資金を考えれば、買えない企業はないだろう。日本でも同じ展開が将来起こるとすれば、ファッション業界に限らず想像を超えた小売業全体の再編成が加速するのは間違いない。
3.まとめ
ファッション商品は軽くてかさばらず、オンライン販売上では比較的単価は高く、かつ送料コスト率も低い。そして個人嗜好が大きな購入要因となる。アマゾンにとっては、過去の閲覧、購入等の履歴からリコメンド商品のコンバージョン(成約率)率を高くしやすく利益率も高い。
全米No.1のファッション販売企業としてより寡占化を進めるには、リアル店舗抜きでは、より大きな成長は見込めない。米国でも日本でもコロナ禍と過剰店舗展開で傷んだファッション業界には、新たな変革につながる台風の目になる。コロナ禍が突き付けたファッション業界への課題に対する構造変革に、残された時間は多くない。