令和元年は今や伝説的アニメとなった『機動戦士ガンダム』(テレビ朝日系ほか)が世に出てから40周年になるらしい。
日本サンライズにより制作された『ガンダム』は、1979年に放送が始まった。当時、小学生だった筆者は、この時のことをしっかりと記憶している。『ガンダム』の放送開始以前、夕方のこの時間帯は楽しいロボットアニメが続いていた。毎回、新たな敵が現れ、紆余曲折を経て、最後には正義の味方である主人公の勝利で終わるという極めて単純な構図だったが、小学生の筆者には非常に楽しい一時であった。
しかし、ガンダムはまったく異なっていた。重苦しいオープニング、「ジオン公国」といったセリフにまったくついていけず、楽しいロボットアニメの時間は終わってしまった。「何がガンダムだ」と、ずいぶん恨んだものだ。
筆者に限らず、多くの小学生は同様の感想を持ったようで、視聴率は低迷し、当初52話の予定が43話に短縮されている。それもそのはず、ガンダムは中学生以上をターゲットとして制作されていた。中学生にすら難しかったのではないかとも思えるが。
視聴率と呼応し、ガンダムに関連する子供向け玩具はまったく売れず、スポンサーである玩具メーカーは売上アップを目指し、ストーリーや登場人物やロボットなどにも大いに干渉したようである。このような干渉に対して、アニメ制作スタッフがスポンサーの気分を害すことなく、それでもガンダムの世界観を死守するために悪戦苦闘したという話は大変興味深い。
こうしたスタッフの努力により、従来、単なる子供の娯楽にすぎなかったロボットアニメのジャンルにおいて、ガンダムでは単純な善悪を超えた複雑な人間ドラマ、主人公の成長など、独自の世界観が描かれた。
後に、このような世界観は多くの中高生を魅了することとなり、再放送および映画における大きな成功につながる。さらには、“ガンプラ”と呼ばれるガンダムに関連するプラモデルは爆発的な売り上げとなった。
40年を経た今でもなお、関連するアニメが新たに制作、放送され、ゲームやプラモデルなど、大きな市場となっている。よって、一般にはガンダムはビジネスとしても大いなる成功を収めたアニメと捉えられている。
イノベーションの困難さ
しかしながら、最初の放送時に視聴率が伸びず、打ち切りになったことは事実である。その理由は、ガンダムがあまりにも斬新、異質であったからだろう。おそらく、目先の視聴率のみを狙うならば、新しさや異質さを抑えるなど、いくらでも策はあったはずだ。だが、そうした場合、ガンダムの独自の世界観は消え、熱烈なファンも生まれなかったと思われる。
この問題は、短期的利益に注力すべきか、長期的利益を重要視すべきか、という問題ともとらえられる。また、顧客ニーズを重視すべきか、もしくは作り手の思いを優先し、作品としてクオリティ・価値の高いものにこだわるべきか、という側面からも検討に値する。
極めて難しい問題ではあるが、アニメに限らず、新たなイノベーションにおいて、革新性が大きいほど、消費者が理解するまでに時間を必要とする場合が多い。具体的には、まず新たなものに寛容なイノベーター(革新者)に火が付き、その後、アーリーアダプター(初期採用者)に受け入れられ、大きな市場へと拡大していく。
よって、大きなイノベーションを擁する商品の場合は長期的視点からマネジメントすることが重要となる。スタートアップ企業の場合は、その期間を耐えうるだけの資金が重要な要件になるだろうし、大手企業の場合は日々コツコツ稼いでくれる商品群と将来、大きな稼ぎ頭となってくれる可能性を秘めたイノベーティブな商品群を組み合わせたポートフォリオのマネジメントが必須だろう。
もっとも、「新しいものを世に送り出してやろう!」という、スタッフの熱意や意地のようなものが、何よりも重要であることは言うまでもない。
(文=大﨑孝徳/デ・ラ・サール大学Professorial lecturer)