バンダイナムコの“苦悩”…ドラゴンボールからアイカツまでコンテンツビジネスの今を分析
「テレビ放送だけやればうまくいく時代ではない」
バンダイ代表取締役社長(当時)、川口勝氏は玩具業界誌「トイジャーナル」の2021年新春インタビューでそう語りました。
その背景にあるもの、アニメ番組を放送し、そのコンテンツに関連するおもちゃを売っていればよかった時代が終わりを迎えつつあること、そしてネット戦略に長けていたタカラトミーの躍進については別記事「日曜朝のアニメ枠に大異変…プリキュア、スーパー戦隊の不調とテレビアニメビジネスの現在」で語りました。
そこで本稿では、株式会社バンダイナムコホールディングスの2021年3月期の決算短信より、「IP別売上高」の数字が発表されている9つのコンテンツの、ここ最近の売り上げ状況について、ざっくりとした分析を施してみましょう。ちなみに「IP」とはIntellectual Property、要は知的財産を指します。またアイドルマスターやラブライブ等、高い売り上げがありながらも「IP別売上高」が出されていない主要コンテンツもバンダイには存在します。(データはすべてバンダイナムコの決算短信より引用)
【DRAGON BALL】海外向けアプリで2015年より大躍進
「DRAGON BALL」は国内トイホビー(玩具など)の割合は低く、売り上げの大半を占めるのが家庭用ゲームおよびゲームアプリのようです。2015年より驚異的に売り上げが伸びているのは、ワールドワイドで配信を開始した「ドラゴンボールZ ドッカンバトル」などのアプリ、および家庭用ゲームが好調に推移していることによるものです。海外にも向けたアプリにより、大きな成功を収めているわけですね。
また国内に目を向けると、データカードダス「スーパードラゴンボールヒーローズ」等がここ数年は好調だったようです。
【ワンピース】ワールドワイドに展開しているアプリや家庭用ゲームが好調
ワンピースも「DRAGON BALL」同様に「国内トイホビー」の割合は低く、「国内でおもちゃを売るビジネス」ではないことがわかります。ワールドワイドに展開しているゲームアプリや家庭用ゲームが好調に推移し、大きく売り上げを伸ばしているようです。
【機動戦士ガンダム】アジア人気もあり国内向けと海外向けが好バランス
「機動戦士ガンダム」は「国内トイホビー」の割合が43%(2021年)と、「DRAGON BALL」等に比べて「国内でおもちゃ等の関連商品を売る」割合も高く、その額も年々増えています。
ガンダムについて決算短信を読むと、「ガンプラ」や「ハイターゲット層向けのおもちゃ」が好調に推移しているようです。ガンプラは国内にとどまらず海外での需要も高く、転売屋も横行するようになっていますよね。(自分のように週末フラっとおもちゃ屋をのぞく程度のファンでは、HGバウンド・ドックもRGジオングもPG【UNLEASHED】のRX-78-2も、いまだに買えていませんが……)
ガンダムの「国内トイホビー以外」もここ数年安定した売り上げを維持しており、これは傘下のアニメ制作会社・サンライズが手がけるアニメ作品やその海外展開などが、主な売り上げのようです。
ガンダムのアニメ関係ビジネスでは、ライト層寄りの「ビルドシリーズ」「SDガンダム」、比較的若いユーザーに向けた「機動戦士ガンダムSEED」「鉄血のオルフェンズ」などの“アナザーガンダム”、主軸となるいわゆる“宇宙世紀もの”では「機動戦士ガンダムUC」「機動戦士ガンダムNT」や「閃光のハサウェイ」などが展開され、あらゆる世代へアプローチできていることが強みです。
また海外、特にアジアで人気を誇る『機動戦士ガンダムSEED』は、上海にフリーダムガンダムの等身大立像が立てられるなど、ワールドワイド展開を見据えた戦略がとられています。
これは、たとえばプリキュアと違ってガンダムというコンテンツが、「玩具、ガンプラなどの関連商品」と「アニメ作品」とが同じバンダイグループ内でビジネス展開できることの強みだと思われます。
【仮面ライダー】国内で「変身ベルト」や「人形」などを売るビジネスが主軸
仮面ライダーシリーズは、売り上げの約85%が「国内トイホビー」です。つまり「仮面ライダー」は、国内で「変身ベルト」や「人形」などを売るビジネスが主軸であることがうかがえます。
2016年3月期には、当時大ブームとなっていた「妖怪ウォッチ」に押されて売り上げを落としますが、その後は再び順調に売り上げを伸ばしていきます。
【スーパー戦隊】不調続きで売り上げ高は全盛期2014年の5分の1以下に
スーパー戦隊は、同シリーズが元になっておりバンダイが権利を持っていた米国のテレビシリーズ「パワーレンジャー」が、2018年、米国の玩具会社「ハズブロ」によってマスターライセンスごと買収されたため、以降、大きく数字を落としています。
また「国内トイホビー」だけを見ても、2021年の売り上げ高は全盛期2014年の5分の1以下にまで落ち込んでおり、「国内でのおもちゃ等の販売」もやや不調が続いていることがわかります。
【プリキュア】国内ビジネスのみに頼るため、外的要因の影響大
バンダイにおける「プリキュアシリーズ」関連ビジネスは、売り上げのほぼ100%が「国内トイホビー」によるもの。つまり国内向けに、「プリキュア変身なりきりおもちゃ」を売るのが主軸となっているのです。(映像関係、版権等は東映アニメーションが手掛けており、バンナム側には売り上げはいっさいカウントされません)
戦隊やライダーもそうなのですが、バンダイにおけるプリキュアは「国内でおもちゃを売る」という1軸しかないため、国内の景気動向や人気トレンドなどの「外的な要因」に影響を受けやすく、ライバルコンテンツが強いと大きく落ち込みを見せることもあります。
【ウルトラマン】大人用のハイクオリティ玩具もあり近年堅調
ウルトラマン関連では、ソフビ人形や玩具展開に加え、大人用のハイクオリティな玩具などの「国内トイホビー」が安定した売り上げとなっていて、それに加えて「ウルトラマンオーブ」「ウルトラマンジード」「ウルトラマンR/B」「ウルトラマンZ」など円谷プロの手掛ける映像作品の売り上げがプラスオンし、近年では順調に売り上げを伸ばしています。
【アイカツ】アニメ映像作品やライブイベントは引き続き安定的な売り上げ
「アイカツ!」は国内トイホビー(主に筐体ゲームで使用するカード類の売り上げ)が2013~2015年にかけて大きな売り上げを確保していましたが、筐体ゲームのブームが落ち着いた近年は減少し、落ち着きを見せています。
ただ。「アイカツ!」は国内トイホビー(主に筐体ゲームで使用するカード類の売り上げ)が2013~2015年にかけて大きな売り上げを確保していましたが、筐体ゲームのブームが落ち着いた近年は減少し、落ち着きを見せています。
ただ、サンライズの手掛ける「アニメ映像作品」やランティスの「音楽、ライブイベント」などの「国内トイホビー以外」は、大きく落ち込んでいないこともわかります。
つまりアイカツ!は、「これまで主力だった筐体カードの売り上げは大きく減っているけど、アニメ映像作品やライブイベントは引き続き安定した売り上げを保っている」こととなり、これはつまりは客層の変化を示唆するものでもあります。
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以上、株式会社バンダイナムコホールディングスの2021年3月期の決算短信より、「IP別売上高」の数字が発表されている9つのコンテンツのここ最近の売り上げ状況について、ざっくりとした分析をしてみました。
これらを踏まえ、プリキュア、スーパー戦隊、仮面ライダーの“ニチアサ” (日曜朝のアニメ枠)コンテンツの落ち込みの背景にあるものについて、別稿「日曜朝のアニメ枠に大異変…プリキュア、スーパー戦隊の不調とテレビアニメビジネスの現在」で語っておりますので、ぜひともご覧くださいませ。
(文=kasumi)