シャープが化粧品事業に参入する。コロナ禍を受けて経営環境が大きく変わるなか、事業の多角化を進めて収益力の強化を図る。「薬用クリスタリーク」シリーズで保湿クリームと化粧水、乳液の3種類を売り出した。価格は保温クリームが1280円(税込)、化粧水は1980円(同)、乳液は2280円(同)。自社の電子商取引(EC)サイト「ココロストア」で販売し、月産1万5000個を目指す。
2023年以降は自社の美容家電と連携するスキンケアやヘアケア商品を販売する計画だ。シャープが化粧品を手掛けるのは初めてである。「シャープマスク」を販売する過程で、マスクと肌の間に生じる摩擦や、息や汗による蒸れ、着脱の繰り返しで起こる肌環境の変化などで、肌の乾燥、肌荒れ、ニキビなどの悩みを抱えている人が増加傾向にあることに着目。先行発売した3つの商品には抗炎症の有効成分「グリチルリチン酸ジカリウム」を配合して、肌荒れやニキビを予防する。
20年2月、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って国内でマスクが不足したことから不織布マスクを生産することを決定。1年で生産枚数が2億枚を突破するヒットを飛ばした。競合が激しい化粧品業界でマスクに続く“二匹目のドジョウ”を手に入れることができるのだろうか。
「デジタルヘルス事業に注力」の方針
新しく最高経営責任者(CEO)に就任した呉柏勲氏は4月12日、大阪・堺市にある本社で記者会見に臨み、「シャープを真のグローバル企業に導くことが使命だ」と述べた。欧米や中国、それに東南アジアでの事業展開を加速するため、海外で家電などの商品ラインナップを拡充する考えを示した。
呉氏は海外で家電のセンサーやディスプレーを活用し、利用者の健康状態をモニタリングする「デジタルヘルス事業に新たに注力する」方針を掲げた。テレビなど家電中心だった、これまでの「ブランド価値を変革したい」と強調した。
13年3月期に5453億円の最終赤字を計上するなど、液晶パネル事業の不振で赤字体質から抜け出せずにいたシャープの不採算事業を切り離すなどのリストラを、シャープを傘下に収めた台湾・鴻海精密工業(ホンハイ)が断行し、18年3月期から最終損益は黒字が続く。短期間で黒字転換を成し遂げたことで、戴氏は「シャープのカルロス・ゴーン」と呼ばれた。4月1月、トップが交代した。呉柏勲常務執行役員がCEOに就任した。この時点では戴氏は会長に留任し、呉氏は副会長としてCEOになるという珍しい経営体制となったが、5月11日、呉氏が6月23日付で社長に就任すると発表し直した。
「2022年度は極めて重要な転換点。新CEOの順調な船出を支えるために、1年間引き続き会長としてシャープの経営に携わる」。戴氏は社内向けのメッセージでこう述べたが、結局、取締役も退任することになった。
「戴会長、呉副会長兼CEO、野村勝明社長兼最高執行責任者(COO)の役割分担がわかりにくいとアナリストに不評だったことに配慮して、方針が変更されたのかもしれない」(シャープ関係者)
野村社長は6月23日付で取締役を退任することが決まった。5月11日に公表された22年3月期の連結決算は、売上高が21年同期比3%増の2兆4955億円、2月時点の予想を240億円下回った。営業利益は2%増の847億円にとどまった。同70億円ショートした。純利益は61%増の857億円と増収・増益だったが、売り上げ、営業利益とも伸び悩んだ。
23年3月期の業績予想は「精査のために時間が必要」とし、開示を見送った。5月11日のオンライン会見で呉氏は「成長のために意思決定を一本化する」とした。新しいトップの下で海外の家電事業の拡大など新たな成長戦略を立案することになる。
経営再建は道半ば
3月、一度切り離した液晶パネル工場を運営する堺ディスプレイプロダクト(SDP、大阪府堺市)を完全子会社にすると発表済みだ。SDP株式の20%を所有し、テレビや業務用ディスプレーのパネルを調達している。残り80%は投資ファンド、ワールド・プレイズが持っている。
シャープの子会社だったSDPの堺工場は2009年に稼働したが赤字をタレ流し、経営危機を招く原因となった。シャープを傘下に収めたホンハイ創設者の郭台銘(テリー・ゴウ)氏の資産管理会社がSDPの過半の株式を握ったが、同氏は19年までに持ち株を売却している。SDPは最終赤字が続き、20年度に売り上げにほぼ匹敵する1000億円の最終赤字を計上していた。
シャープの再建は道半ばなのである。呉氏は年間の販売管理費を1000億円規模で圧縮するなどコストの削減に努め、一定の成果を上げたが、成長する事業を生み出すための“攻めの経営”への転換を強く求められている。
(文=Business Journal編集部)