値引きは魅力的であり、値引きを見て購入を決めたという経験は誰にでもあると思います。値引きの魅力度は、値引き額や値引き率などの値引きの大きさから評価することが多いですが、実は値引きの表示方法もその評価に影響を与えます。値引きをどのように表示するかによって、消費者による値引きの理解のしやすさが変わり、それによって評価も異なるのです。
消費者行動研究では、様々な情報に対する消費者の理解のしやすさを「処理の流暢性(processing fluency)」と呼び、それが製品評価、購買の延期、情報の信頼度など多様な判断に影響することが実証されています【註1】。今回は、値引き価格を通常価格と一緒に表示するときに、どのような表示の仕方が評価を変えるのかについて、関連研究から説明したいと思います。
値引き価格と通常価格、どちらを大きく表示するべきか
セールの表示で、通常価格よりも値引き価格のフォントをより大きく表示しているものをよく見かけます。それはもちろん、値引き価格が消費者の目に留まりやすいようにするためですが、実は、逆に通常価格のフォントをより大きくしたほうが効果的であることがコールターとコールターの研究によって示されています【註2】。
コールターらは、値引き価格は通常価格よりも数値が小さいので、同様にフォントも通常価格よりも小さくしたほうが意味的に一致して理解しやすくなり、値引きがより魅力的に評価されると考えました。これは、数字は一般に「〇〇よりも小さい」「〇〇よりも大きい」のように相対的に記憶されやすいため、小さい数値には小さいフォント、大きい数値には大きいフォントのように、数字と一致するフォントを用いたほうがスムーズに理解されるという考えにもとづいています。
コールターらはこの仮説を検証するために、インラインスケートの広告を作成し、値引き価格のフォントを通常価格よりも小さくした場合と大きくした場合とで、被験者の評価を比較する実験を行いました。その結果、値引き価格のフォントを通常価格よりも小さくしたほうが、価格の評価、値引きの価値、および商品の購買意図が高くなることを明らかにしています。また、この実験では被験者がフォントの大きさに気づいておらず、その評価は無意識に行われていたことも確認しています。
つまり、消費者は値引き価格に意識を向けていたとしても、値引き表示に用いられたフォントのサイズも無意識に処理しており、それらの両方から値引きを評価しているということになります。コールターらは、値引き価格は通常価格よりも小さいフォントで表示し、目立つ色や動きをつけるなど他の要素で目立たせることを勧めています。
値引き価格と通常価格の位置は離すべきか、近づけるべきか
値引き価格と通常価格を表示する位置間の距離も影響します。コールターとノルベルグが行った研究がそのことを実証しています【註3】。値引き価格は通常価格のすぐ側に示すのが一般的ですが、彼らは2つの価格の表示位置を離したほうが、消費者はそれらの価格の違いをよりスムーズに理解できるので、それらの差(値引き額)をより大きく感じると提案しました。
次のような実験でこの仮説を検証しています。アイクスクリームスクープとピザカッターを対象とし、通常価格を7ドル、値引き価格を5ドル(約29%引き)か6.75ドル(約4%引き)にした広告を作成し、被験者に評価してもらいました。値引き価格と通常価格の距離は、長い場合が4.2インチ(約11 cm)、短い場合が1.8インチ(約5 cm)で、それらを水平に表示しました。その結果、値引きの大きさに関係なく、距離が長い方が値引きの評価と商品の購買意図が高くなることを見出しています。彼らはさらに、2つの価格を水平に表示した広告と垂直に表示した広告を比較する実験も行っており、水平に表示したときに距離の影響が見られることも確認しています。
広告では通常価格と値引き価格の距離を少し離して水平に表示することで、値引きをより魅力的に見せることができるということになります。
値引き価格は、通常価格の右側と左側のどちらに表示するべきか
それでは、値引き価格と通常価格を並べて表示する場合に、どちらを左側に提示したらよいでしょうか。この疑問に焦点を当てたのがビスワスらの研究です【註4】。引き算の問題をイメージするとわかりやすいのですが、一般に、大きい数字は左側、小さい数字は右側にあったほうが、それらが逆になっている場合と比べてずっと計算しやすいです。値引きも同じで、数値の大きい通常価格を左側、数値の小さい値引き価格を右側に表示したほうがそれらの差の計算が容易になるため、消費者が値引きの大きさをよりスムーズに理解できると予想しました。
この仮説は次の実験で確認しています。通常価格を329.99ドル、値引き価格を230.99ドル(30%引き)か296.99ドル(10%引き)とするブルーレイプレーヤーの広告を作成し、値引き価格を通常価格の左側に表示した場合(左側表示)と通常価格の右側に表示した場合(右側表示)とで、被験者の評価を比較しました。その結果、10%では違いは見られなかったのですが、30%引きのときに、右側表示のほうが左側表示よりも値引きの評価と商品の購買意図が高くなりました。
ビスワスらはさらに、値引き額を推定してもらう実験も行っており、30%の値引きでは、値引き額は右側表示では正確に推定されるのに対し、左側表示では小さく感じさせることを明らかにしています。ビスワスらは、この結果について、消費者は右側表示にすると引き算を容易に感じて値引き額を計算するものの、左側表示にすると計算を避けてよくある値引き額(10~12%程度)で捉えてしまうので、値引き額を小さく感じるのだと説明しています。
ビスワスらはさらに別の実験を行い、値引きがかなり小さい場合(4%引きなど)には左側表示にした方が、値引き額が計算されずによくある値引き額(10~12%程度)で捉えられるため、値引きを実際よりも大きく感じさせられることを確認しています。
値引きが30%のようにある程度大きい場合には、値引きの大きさをより正確に理解してもらうためにも、通常価格の右側に表示したほうがよいということになります。
以上の研究からは、セールの広告で通常価格と値引き価格の両方を表示する場合には、値引きの大きさだけでなく、それらのフォントサイズ、位置、および差の計算しやすさを考慮することにより、消費者の値引き評価を改善させられることがわかりました。値引きを行う際には値引きの表示方法を工夫されるといいかもしれません。
(文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授)
【参考文献】
【註1】Schwartz, N. (2004). Metacognitive experiences in consumer judgement and decision making, Journal of Consumer Psychology, 14 (4), pp. 332-348.
【註2】Coulter, K. S. and R. A. Coulter (2005). Size does matter: The effects of magnitude representation congruency on price perceptions and purchase likelihood, Journal of Consumer Psychology, 15 (1), pp.64-76.
【註3】Coulter, K. S. and P. A. Norberg (2009). The effects of physical distance between regular and sale prices on numerical difference perceptions, Journal of Consumer Psychology, 19 (2), pp. 144-157.
【註4】Biswas, A., S. Bhowmick, A. Guha and D. Grewal (2013). Consumer evaluations of sale prices: Role of the subtraction principle, Journal of Marketing, 77 (4), pp. 49-66.