酒井美紀、島谷ひとみ、いとうまい子も…なぜ女性芸能人の社外取締役がブームに？

　今、女性芸能人の社外取締役登用が、にわかにブームとなっている。特に業界大手や世間的にも知られた企業のなかで、この傾向が強い。その豪華な面子を見れば、ブームという表現も納得できるはずだ。

　昨年、不二家に女優の酒井美紀、抗原検査サービスを行うI Checkに歌手の島谷ひとみ、学習塾TOMASなどを運営するリソー教育に女優のいとうまい子が、それぞれ社外取締役として就任した。そのほかにも、SBIホールディングスに元TBSアナウンサーの竹内香苗、コーセーに元フジテレビアナで弁護士の菊間千乃、日本郵船にNHKでキャスターを務めた国谷裕子、学研に女優の城戸真亜子、さらに今年7月には美容室大手チェーンの田谷に参院選候補の生稲晃子が、社外取締役に就任したことが明らかになっている。

　もっとも、これらの女性芸能人の登用は、あくまでも全体の一部であり、近年、女性の社外取締役就任が飛躍的に進んだという現状がある。とはいえ、なぜこれほど女性芸能人の社外取締役が増えたのか。全国紙経済部記者は、次のように解説する。

「2011年との比較でいうと、女性社外取締役を登用する企業の数は、上場企業だけで20倍近い数字になっており、今では1000社を超えています。政府が女性登用を推し進めているという背景もあり、今後もその数は増加していくでしょう。

　そんななかで、なぜ女性芸能人が登用されるかという点について、ひとつは広告塔としての価値が大きいことが挙げられます。女性に限らず、男性芸能人の社外取締役登用の流れも加速しています。現在の社外取締役というのは、経営のプロとしての要素よりも、アドバイザー的な役割が大きいといえます。そういった視点でも芸能人の登用は、経営陣にとっては“与しやすさ”も踏まえて、非常に効果的な一手でもあるといえるでしょう」

　ただし、利点ばかりではない。このブームは“女性登用を推奨する”という前提ありきの部分があるとして警鐘を鳴らす。

「一般的に社外取締役は、弁護士などガバナンス面での監視というのが主な役割です。あとは、自身の経歴に沿ったスペシャリストも多くいます。そういった点で、女性芸能人の登用というのは疑問が残る点もありますね。ただ、皮肉なことに女性芸能人の登用によって、女性の社外取締役が認知され、今の女性社外取締役就任ブームを牽引している側面があるといえるでしょう。今後の焦点は、彼女たちがどんな存在感を発揮し、どれだけの期間、取締役としての責務を全うできるか、ということです。それによって、女性有名人の登用はより定着してくるでしょう」（同）

企業側が女性芸能人を登用する狙い

　実際に登用する企業側は、どう見ているのだろうか。その声を拾っていくと、「現段階ではどんな効用があるかは見えにくい」という本音も聞こえてくる。ここにも女性と男性の意識の違いは見て取れる。女性の社外取締役を推奨する、ある企業の幹部がこう明かす。

「女性のなかには、『女性、女性と前に出すのは逆差別ではないか』『（ここに力を入れるなら）産休・育休制度を充実させ、女性の幹部を育てる企業努力が必要ではないか』という意見が多い。一方で男性の役員は『世間の流れ的に必要なこと』という認識で、自発的に進めているというよりは、あくまで世間の風潮に乗って女性役員を増やしていると捉えている傾向がある。そこに温度差がある」

　気になるのは選考基準だが、どのように選出しているのだろうか。前出の幹部は、より精査していく必要があるとの見解を示す。

「企業イメージと合っているかどうかが最大のポイントになりますが、その基準はかなり曖昧でもあります。ある企業では、『代表取締役が、その芸能人のファンだった』という理由で採用したとの話も耳にしたことがあるくらいです。実際に選んでいるのはオジさんですから、そのようなことが平気で起こるわけです。感覚的には、まだテレビCMなどのイメージキャラクターほうが、より慎重に選んでいるとも思います。とはいえ、今後も女性の役員登用は間違いなく増えるので、その採用基準をより明確化する必要性があるとも感じています」

　芸能人の登用増加によって、関心が高まっている女性の社外取締役。ただし、本当の意味でその意識が浸透するのは、まだまだ先の未来なのかもしれない。

（文＝Business Journal編集部）