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なぜタクシーが事故っても会社名が報道されないのか?危ない運転手の共通点

構成=後藤豊/ライター兼タクシードライバー
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タクシー(「gettyimages」より)
「gettyimages」より

 タクシー業界は、会社により待遇がまるで違う。大手は売り上げのノルマがきつく、稼げるがストレスも溜まる。一方、中小はノルマが低い分、給料も低いがストレスも少ない。そんな業界で働くタクシードライバーたちは、日々どのように仕事をこなしているのだろうか。客として乗っているだけでは決してわかないタクシー業界の裏側について、会社の違う2人のドライバーに聞いてみた。

※前編はこちら

死亡事故を起こした運転手は即クビに

――タクシー運転手が一番気をつけなくてはならないのが、事故のリスクです。

山川(仮名/40代) 空車で手が挙がり、慌てて停めてドアを開けたら後ろから走ってきたバイクにぶつかったり、客に「急いでくれ」と言われ、右直事故を起こしたりするケースもあります。ただ、事故の際の修理費は、月8000円ほどの組合費からほぼ出ます。高級車にぶつけると大変なことになりますが……。また、先日知り合いの運転手が引き抜かれた歩合率70%の会社は、事故を起こすと全額自腹だそうです。

山崎(仮名/60代) ローカル営業なので都心と違って同じ道を走ることが多いため、狭い道などの注意すべき場所では飛ばさないように気をつけています。以前に自損の物損事故を起こしたときは、修理費が100万円で20万円を弁済させられました。月5000円ずつ、40カ月にわたって給料から引かれましたね。また、無事故手当(1万円)がもらえませんでした。

 ちなみに、うちのグループ会社で死亡事故を起こした運転手は即刻クビになりました。人身事故は警察沙汰になり免許停止などの処分を受けますが、自損事故は社内でカタがつきます。ドアを擦った程度の自損事故の場合、相方(同じ車を使っている運転手)に報告しますが、会社に報告するかどうかは損害の状況によります。擦り傷なら黒ペンを塗っちゃいます(笑)。

山川 うちにもそういう人はいますが、僕は同僚との人間関係をつくっていないので、少しの傷でも報告します。死亡事故は、うちのグループ会社でもありました。重大事故を起こすと乗務員の勤務内容なども国にチェックされ、交通違反の点数のように会社の不備がカウントされます。場合によっては、ナンバーを外されてしまいますね。ただ、一般的なニュースの扱いは小さく、事故を起こした会社名も絶対に出ないです。

山崎 憶測ですが、会社名を出さない報道規定があるんじゃないかな。事故の過失割合も後にならないとわからないし、その会社の売り上げが減るのは目に見えていますからね。事故を起こす運転手に共通するのは「スピードの出し過ぎ」と「慌てる運転」です。10年ほど前、目的地のホテルが右にあるとわかり、右折禁止の場所で右折して、バイクとの人身事故を起こしました。その際の罰金は50万円で、組合が10万円、私は40万円を負担させられました。それ以来、慌てずに運転するようにしており、遠回りした場合はその分を返金しています。

山川 軽く擦ったのも事故とすると、毎日運転しているタクシードライバーで事故を起こしたことがない人は、ほぼいないんじゃないかなぁ。

山崎 うちの会社は風呂や食堂はもちろん、両替機さえ置いていなく、最初に入ったときは驚きましたが、「事故さえ起こさなければ天国」と言われています。

――どのあたりが“天国”なのでしょう?

山崎 先日、出番日だったのですが、暇な時間に2時間ほど回送にして、友人の見舞いのために30キロほど離れた病院に行ってきました。帰りは空車にして客を拾うべく流していたのですが、途中で成田空港までの客を拾えて、いつもの倍売り上げました。今はガソリン代が高いので、他にも買い物や友人とのお茶など、私用でバンバン使っています(笑)。2時間ほど空車で走っても、6時間休んでも、うちは何も言われません。運転手の中には、1車(相方がいない勤務体系)で仕事と私用をこなしている人もいます。

山川 うちは無線が鳴るので、2時間空車など無理です。ましてや6時間も同じ場所にいたら、無線室経由で電話がかかってきます。「死んでるんじゃないか?」という理由ですね。また、こちらに落ち度のない苦情がきても、怒られるケースが多いです。

山崎 うちは苦情がきても、会社は右から左です。帰庫後の洗車も、僕は相方と示し合わせて「雨の日だけ」としています。雨の後はさすがに汚くなるのですが、普段は疲れているので洗車はしません。

山川 それも違いますね。私は毎回1000円払って洗車係に洗ってもらいます。場合によっては、ガソリンスタンドで400円の自動洗車を利用することもあります。

――大手と金銭面の待遇差はあるにせよ、中小は働きやすそうですね(笑)。

山崎 大手より歩合が低いので、税抜き売り上げが5万円の場合、手取りは2万6500円ですが、ここまで話した通り、目に見えないメリットもあるんです。

山川 うちは売り上げ5万円なら手取り3万1000円ですが、今はGPSで走行経路がすべてわかります。たまに抜き打ちでチェックされるので、少しでも変な動きをしていると、会社に何を言われるかわかりません。

――稼ぎたければ大手、ストレスなく働きたいなら中小、という感じですね。ありがとうございました。

後藤豊/ライター兼タクシードライバー

後藤豊/ライター兼タクシードライバー

1966年千葉県生まれ。東京都内の中小会社でタクシードライバーを兼務するライター。競馬と野球をメインに、雑誌や書籍で執筆をしている。主な著書に『テイエムオペラオー伝説』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(ともに星海社、共著)などがある。

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