2日、SNSで「トヨタ社長豊田章男氏、ワクチン打たず『DSが人口削減のために用意した遅効性の毒』株価は3%下落」と題するデマ記事が拡散された。トヨタ自動車の豊田章男社長が陰謀論を信じているかのような内容で完全に虚偽情報だったが、トレンドワード入りするほどシェアされたことで波紋を呼んでいる。
問題の記事は、2日に「Tech News Online」というサイトに掲載された。豊田社長が2日に名古屋市で会見を開いて「ワクチンはDSが人口削減のために用意した遅効性の毒です。打つと2年以内に死にますよ。大切な人に、打たせないでください」「私は、ワクチンを打っていません」などと発言したという内容だった。
ちなみに、DSとは「ディープ・ステート」のことで、アメリカで真の権力を握っているという「闇の政府」を意味し、よく陰謀論のテーマになる言葉だ。
これがTwitterで拡散されると「トヨタ社長」「遅効性の毒」「人口削減のため」といったワードがトレンド入りして大きな反響を呼んだが、記事はまったくのデタラメで、そもそもトヨタ自動車が2日に会見を開いた事実はなかった。
かねてからトヨタ自動車は職域接種を実施しており、豊田通商などと共同でワクチン保冷輸送車を開発してWHOの品質認証を受けるなど、むしろワクチン接種を推進している企業といえる。
早くからデマだと気づいた人も少なくなかったが、一部の「反ワクチン派」の人たちが「トヨタ社長も目覚めたんですね」「勇気ある発言」などと記事内容を称賛したことで拡散が加速していった。
また、TwitterでYahoo!ニュースの偽アカウント「Yqhoo!ニュース」が記事を拡散させたことも、Yahoo!の記事と間違えてデマを信じる人が増える要因となった。
問題のデマを掲載した「Tech News Online」は、ブログ作成ツール「Ameba Ownd」を使って作成された個人ブログで、記事数は全体で4本しかない。だが、ブログのデザインやタイトルが一見すると企業サイトのように見えるためにデマが拡大したようだ。
「フェイクニュース」で儲ける“デマのプロ”も
「Tech News Online」は現在記事を削除しており、どのような目的で「フェイクニュース」をつくり出したのかは判明していない。
このブログがそうだったのかはわからないものの、ネット上ではフェイクニュースを流すことで注目を集め、有料のコンテンツや商品の販売、広告費などで利益を得ている「デマのプロ」たちがいる。特に海外では盛んで、複数の従業員を雇って組織的にデマを量産しているケースも珍しくない。
そういった「フェイクニュースビジネス」の世界で最も手堅いネタのひとつが、今回の記事でも使われた新型コロナウイルスやワクチン関連のデマだ。人々の意見がわかれやすい題材で、自分の考えに近くて都合のいい内容だと、真偽を確かめずに反射的に拡散してしまう傾向あるからだ。
また、問題の記事では会見直後に「トヨタ自動車の株価は1・8%下落、その後も下げは止まらず一時3%程下落した」とされていた。まったく根拠のない情報だったが、実際に2日のトヨタ自動車の株価は落ちている。
他にもフェイクではない大きなニュースがあったので株価下落がデマの影響かどうかは確かめようもないが、今回のデマの「犯人」が株価を操作しようとしていた可能性もゼロとはいえないだろう。
過激な内容の記事は「誰かに知らせたい!」と思わず拡散してしまいたくなるのが人情だが、安易なリツイート(RT)はデマの拡散に加担してしまうことになる。また、悪質な投稿をRTしただけで「名誉毀損」「著作権侵害」などにあたると判断された事例もあるだけに、SNSを利用するにおいて気をつけたいものだ。