いったい、マッスはどのようにしてFIFAのライセンスを獲得したのだろうか? そして、なかなか知られることのないライセンスビジネスの裏側について、マッス相談役の岡健體氏に話を聞いた。
–マッスでは、14年FIFAワールドカップブラジル大会の日本国内における公式グッズのライセンス(商品化、製造、販売)を獲得しています。いったい、どのような経緯でライセンスが付与されたのでしょうか?
岡健體氏(以下、岡) 弊社では、02年日韓大会、06年ドイツ大会でもライセンス契約をしていました。この契約は、FIFAから電通にライセンスが与えられ、さらに電通から弊社へと与えられた契約です。
10年の南アフリカ大会からは「グローバル・ブランズ・グループ」(以下、GB)という会社が、FIFAオフィシャルグッズのライセンスを統括するようになり、日本でも電通を経由せずにGBが独自にサブライセンスを日本の企業に与えるようになりました。この時弊社にも、GBからサブライセンスの声がかかりましたが、それまでの契約形態とは違うので見送りました。
電通とはFIFA関連の仕事のみならず、さまざまな場面で懇意にしてもらっているため、電通との関係を壊してまでGBとの契約はできません。GBの提示してきた料金が、それまでの相場よりも、やや高額だったことも一因です。
–そんな状況の中でGBのライセンスは、商業的には成功したのでしょうか?
岡 いえ。GBは日本でのライセンス事業の経験が少なく、市場の特徴をつかめなかったことなどが原因となり、かなりの苦戦を強いられました。またサブライセンス企業間との連携もうまくいかず、統一したマーケティングができていなかったように思います。
–日本は有望な市場と見ているFIFAが取った策は?
岡 そこで、FIFAは新しい契約先を探し、ライセンス事業の立て直しを図ることになりました。日本では電通に打診があり、クラブワールドカップや女子サッカーワールドカップなどで、FIFAとの深い取引があった弊社に声がかけられ、最終的に契約に結びつきました。電通は従来からFIFAとの関係が深いので、アドバイザーとして入ってもらっています。同社はサッカーだけでなく、さまざまなスポーツを手がけており、情報収集力も高いですからね。
–ブラジル大会は来年6月に開幕しますが、どのようなスケジュールでビジネスが動いていくのでしょうか?
岡 今年6月4日に日本代表のブラジル大会への出場が決まり、ごく一部の商品を限定的に販売開始しました。その後8月14日、9月6・10日に行われたウルグアイ、グアテマラ、ガーナとの国際親善試合に照準を合わせて、商品の種類を追加いたしました。
残念ながら、ブラジル大会のことは多くの国民が知ってはいますが、まだライセンス商品に関しては知らない人が多いため、ワールドカップグッズを購入しようという雰囲気にはなっていませんので、売り上げは予想した金額に至っていません。
12月6日に組み合わせ抽選会がブラジルで行われ、それに合わせて本大会で使用される公式球の発表など、大きなイベントが開催される予定です。弊社としても、その時期に合わせてライセンス商品の追加投入を行う予定です。
その後は、来春の国内サッカーシーズン開幕や新入学シーズンから5月のゴールデンウィークを経て大会開催直前までラストスパートをかけ、6月の大会期間中にライセンス商品を売り切ることを目標にしています。
–御社では、FIFAオフィシャルグッズとして、スポーツ用品のみならずTシャツや日用雑貨など、さまざまな商品を販売しています。グッズを取り扱う上で苦労する部分もあるのでしょうか?
岡 いろいろなグッズのアイデアが浮かぶんですが、その売り方が難しいですね。例えば、赤ちゃん用品をつくった場合、売り場のイメージは湧くのですが、どのようなルートからバイヤーに提案すればいいのかわかりにくい。また、スーパーなどの大型店になると、売り場がそれぞれバラバラですし、バイヤーも異なりますので苦労をしています。
–商品カテゴリーが幅広いからこその悩みですね。ところで、FIFAオフィシャルグッズとして“タブーな商品”というのもあるのでしょうか?
岡 オフィシャルスポンサーに関連するもの、例えばソフトドリンクならコカ・コーラ、食品類はマクドナルド、電気製品はソニーなどと決まっており、手が出せません。つくれるのは、FIFAと契約したカテゴリーの商品に限定されます。
–ブラジル大会に向けて、売り上げ規模としては、どの程度を見込んでいますか?
岡 直接の契約で、今回ほど多くのカテゴリーを預からせていただくのは初めてなのですが、少なくとも10年の南ア大会時を上回る売り上げを確保したいと考えています。今大会の大きな特徴は、日本代表チームの実力がかなり高く、上位に食い込めると期待しています。また東京オリンピックも確定して、スポーツ庁を設立しようとの声も聞きますし、全国的にスポーツ機運が高まっているように思います。
最後に、日本にとってブラジルは遠くても身近に感じる国です。過去には多くの移民がブラジルに渡っており、現在ではブラジルから日本に働きに来ている人が30〜40万人います。近年はブラジルの経済力も高まっています。世界のサッカー界を牽引しているのはブラジルとヨーロッパです。ブラジルで開かれるワールドカップは必ず盛り上がると期待しています。
(文=萩原雄太/かもめマシーン)