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カプセルトイ専門店、なぜ急増?「ガチャガチャの森」が売上6倍に成功した秘策

文=鶉野珠子/清談社
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「ガチャガチャの森」に並ぶカプセルトイ
「ガチャガチャの森」に並ぶカプセルトイ

 ブームが定着し、新作が次々とリリースされている「カプセルトイ」。ベンダー側からすると、無人で販売できるため人件費がかからず、狭小なスペースにも出店できることがビジネス的なメリットだった。しかし、近年は販売スタイルが変化してきており、商業施設内のテナントにカプセルトイ販売機を数百台以上も並べ、商品補給や機械トラブルに対応するためにスタッフを常駐させた、大規模な「カプセルトイ専門店」が増えている。

 こうした専門店は施設内でも人通りの多い、いわゆる“一等地”に出店していることが多く、かつての「空きテナントを活用した隙間ビジネス」とは方向性が変化している。いわば「ショップ化」が進んでいるのだ。従来のビジネスモデルに比べてテナント料や人件費もかさんでいると思われるが、利益面はどうなのだろうか。

 全国各地にカプセルトイ専門店「ガチャガチャの森」を展開するルルアークのカプセルトイ事業部ゼネラルマネージャー・松井一平氏に話を聞いた。

軒先ビジネスからの脱却と専門店化への歩み

 近年、爆発的にカプセルトイ専門店が増えている。新型コロナウイルスの影響で商業施設のテナントが次々に閉店し、その跡地にオープンしているという印象を受けるが、松井氏は「コロナの影響が出店を後押ししているわけではありません」と話す。

「空きテナントにカプセルトイのマシンを並べるという出店方針でいえば、リーマンショックのときの方が盛況でした。当時は『空いているテナントをどうにか埋めてほしい』という要望も多く、当時当社では催事としてその声に応えていました。しかし、そのビジネスモデルでは事業の安定性に欠けるという懸念があり、当社の代表取締役社長の長友伸二の方針で、従来の軒先や催事ビジネスから脱却し、カプセルトイ専門店のテナント出店へと舵を切る決断をしたのです。当社にはアミューズメント店舗展開により培ったノウハウや実績があるので、それらを活かして現在のような専門ショップ化にビジネスモデルを転換しました」(松井氏)

 リーマンショック当時よりも、現在の方が売り上げは好調だという。その理由を分析すると、カプセルトイに対する消費者のマインドの変化があったようだ。

「カプセルトイは“モノ消費”ではなく“コト消費”なんです。一般的に『ガチャガチャ』と呼ばれていますが、その言葉をよく聞くと、ガチャガチャを『やる』『回す』とは言っても、『買う』とはあまり言わないですよね。コロナ禍で数々のコト消費が自粛を求められる中、身近で楽しめる娯楽として、カプセルトイを『やる』行為が注目を集めたのです」(同)

カプセルトイ専門店、なぜ急増?「ガチャガチャの森」が売上6倍に成功した秘策の画像2

 コト消費の代表例には、旅行やライブなどが挙げられる。これらは長距離の移動を伴う上、不特定多数の人が集まる場合が多く、感染リスクが高い。そのため、コロナ禍では真っ先に自粛の対象になってしまった。

「遊びに行きたいけど行けない状況下で、ショッピングのついでに寄れて、感染リスクも低いガチャガチャは、時流にマッチした“コト消費”なのです。何が出てくるかわからないドキドキやワクワクは、まさに体験型で、カプセルトイならではの魅力といえます」(同)

 買い物のついでというニーズも踏まえ、同店の出店場所は大型ショッピングモールや駅ビルの中などが増えている。

「商業施設内でも、人通りが多い区画ほど売り上げが伸びるというデータが出ています。なので、出店場所を選ぶ際はより多くの人の目に留まるかを意識し、結果的に賃料の高いテナントで営業することが増えていますね」(同)

マニア向けの専門店が儲からない理由とは

 同社がカプセルトイ専門店を展開し始めたのは、リーマンショックから少し経った2014年のこと。このとき、短い期間で立て続けに3店舗を出店したが、全店相当な苦戦を強いられたそうだ。というのも、当時はカプセルトイのマニアに向けた店づくりをしており、それが売り上げ増を阻んでいたという。

「カプセルトイの商品は、すべて受注生産なんです。玩具メーカーが新商品を発表し、我々が注文するのは発売の3カ月前。ほとんどの場合、メーカーはその注文分しか製造しないので、どれだけ売れ行きが良い商品でも、すぐに追加の補充ができません。このサイクルをマニアたちは知っているので、欲しい商品や人気商品が売り切れると来店しなくなるのです」(同)

 こうして3店とも、オープンから3カ月で売り上げが半分にまで落ち込んでしまった。しかし、「この3カ月の売り上げを分析し、現在の『ガチャガチャの森』につながるヒントを見つけました」と松井氏。

「マニアは、人気商品の発売時には来てくれました。それ以外の平常時の客層を分析すると、普段ガチャガチャを回さない“大人女子”が売り上げを支えてくれていたことが判明。そこで、ショップのコンセプトをマニア向けから『普段ガチャガチャをしない人向け』に変えようと思ったのです」(同)

 こうして、2017年にリブランドした「ガチャガチャの森」が誕生する。対象は「普段ガチャガチャをしないすべての人」としたが、とりわけ「大人女子」が一番のターゲットに設定された。同店には、そんな大人たちに楽しんでもらうための工夫が随所に施されている。

カプセルトイ専門店、なぜ急増?「ガチャガチャの森」が売上6倍に成功した秘策の画像1

カプセルトイ専門店、なぜ急増?「ガチャガチャの森」が売上6倍に成功した秘策の画像3「内装はシンプルに。さらに、店頭には大人女子の興味を引きそうな商品のディスプレイを置いています。カプセルトイが好きな子どもとマニアに向けた商品は店の奥に置き、入り口に親子連ればかりが集まらない空間づくりを心がけました。店頭に子どもが多いと、大人は『子ども向けの店なのか』と思い、足が遠のいてしまいますからね。こうして『ガチャガチャ=子どもの遊び』というイメージを払拭し、大人でも入店しやすくしたのです」(同)

 また、販売機の陳列の仕方にもこだわりがある。通常、カプセルトイの販売機は子どもの身長に合わせて2段で積まれている場合が多いが、同店ではメインターゲットである大人女子の視界を考慮し、3~4段で積み上げているのだ。

「子どもは2段、女性は3段、男性は4段が最も視界に入りやすいので、それに合わせて高く積み上げています。もちろん、高さを出す分、安全対策には注力していますし、消防検査にも合格しています」(同)

スタッフ常駐の意外な効果

 同店は「今までカプセルトイに親しんでこなかった人」をターゲットに、市場規模を拡大させている。「ガチャガチャの森」をオープンする前年の2016年とコロナ禍の現在の売り上げを比べると、なんと約6倍に成長しているという。

「設置店数は大幅に減っていますが、売り上げは今の方が好調です。現在のショップは新規層を獲得しやすく、さらにリピートしてもらえる業態だからだと思います」(同)

 カプセルトイ売り場の既存イメージを覆す「スタッフ常駐」という点も、新規層獲得とリピート率増加の重要な一因だ。

「店舗に店員を常駐させ、『いらっしゃいませ』『ありがとうございました』の声かけを徹底しています。この声かけがあるだけで『何かあったら店員が対応してくれるんだ』と、お客様に安心感を持っていただけるのです。何を取り扱う店でも、接客の質が低い店に『また行きたい』と思う人はいませんから、従業員の教育は時間とコストをかけて行っています」(同)

 このビジネスモデルは、人件費がかからないというカプセルトイ商売の利点を無視しているようにも思える。だが、実際には店舗型の方が人材面のコストは改善しているそうだ。

「軒先にマシンを設置していた頃は、全従業員に1台ずつの営業車をつけて巡回させていたので、管理費、ガソリン代、高速代などがかかっていました。それに車だと、万が一の事故のリスクもあります。そう考えると、今の常駐型の方がコストが見える化され、先々の予算も考えやすくなりました」(同)

 質の高い接客を提供すべく、同店のスタッフは「耳で音を聞き分ける訓練」をしているという。商品が出てこないときに発生する音が聞こえたら対応に走り、無事にカプセルが出てくる音が聞こえたら「ありがとうございました」の声かけを欠かさない。実際に原宿店内で松井氏がハンドルを空回ししてみると、不調かと思った店員が素早く駆けつけてくれた。

「店員は在庫状況や入荷情報も把握し、お客様からの商品の問い合わせにお答えできるようにしています。当社では独自のPOSシステムを構築し、各店の売れ行きと在庫を一元管理しているのです。基本は商品部によるセンターコントロールにて、データに基づきながら店舗へ週3~4回の商品出荷を行います。さらに、それぞれの店舗スタッフが携帯端末を使用した追加要求や端数商品を返品できる仕組みを使いながら、在庫コントロールを行っています」(同)

 地域によって売れ筋商品は変わるもの。再入荷・在庫処分が難しいカプセルトイだが、グループ全体でデータに基づいた商品管理ができるため、過不足のない商品供給を叶えられている。

 これまでのカプセルトイ販売は、道端で偶然マシンを見つけた子どもが衝動的に親にねだって回させてもらう、いわば“涙の売り上げ”が中心だった。しかし、専門店では最初から「ガチャガチャを回して遊びたい」と思う人のみが入店するようになったという。松井氏は「カプセルトイ専門店は“笑顔の売り上げ”を生み出す場所になったのです」と、微笑みながら語ってくれた。

清談社

清談社

せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
株式会社清談社

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