「機動戦士ガンダム」シリーズのプラモデル、通称「ガンプラ」が2020年で誕生から40年を迎えた。今もその勢いは衰えるどころか、絶好調だという。工場は24時間操業で、20年12月には静岡の新工場が稼働を開始した。なぜ、ガンプラはいまだに人気なのか。その進化の歴史などについて、BANDAI SPIRITSホビー事業部デピュティゼネラルマネージャーの筒井慶剛氏に聞いた。
プラモデル市場縮小の中で出荷数が3倍に
ガンダムシリーズは1979年のアニメ『機動戦士ガンダム』放送以来、さまざまな作品が生まれ、近年も新作『ガンダムビルドダイバーズ Re:RISE』が配信されるなど、40年間も支持を集め続けている。作中に出てくるモビルスーツを忠実に再現したガンプラも高い人気を誇り、80年の発売以来、販売数は常に右肩上がりだという。
矢野経済研究所のデータによると、89年に約475億円を記録していた日本のプラモデル市場は、現在は約275億円と半減している。また、全体の購買層も40代が多く、プラモデル業者の団体である静岡模型教材協同組合などによると、かつてのコア世代だった小中学生のプラモデル離れが深刻だという。ただし、ガンプラに限っては出荷数を年々伸ばしており、今やガンプラが日本のプラモデル市場を担っていると言っても過言ではない。
「2008年度の出荷数は約550万個でした。そこから順調に伸び、18年度は約1573万個と、約3倍になっています。19年4月には累計出荷数が5億個を突破するなど、たくさんのお客様にご購入いただいています」(筒井氏)
18年度のガンプラ関連(プラモデル単体でなはい)の売り上げは前年比2割増の325億円。生産工場も24時間体制で稼働しており、20年12月には静岡の新工場が稼働を開始したことで、生産能力は4割も向上するという。少子化もどこ吹く風、まだまだ売り上げは伸びそうである。
そんなガンプラは、発売からこれまで多くの進化を遂げてきた。その歴史を、筒井氏はこう語る。
「144分の1、100分の1、60分の1と、サイズが大きくなるほど、組み立てた後の色再現性、関節可動箇所、アニメ作品のギミックの再現が充実する商品として、ガンプラは進化してきました。さらに、接着剤不要のスナップフィットの採用、関節可動域を広げることでポージング再現度の向上などが実現し、弊社独自の多色成形技術により、塗装の手間を省くための色再現性も年々高くしています」(同)
ガンプラは色再現、関節可動、つくりやすさを基本理念に開発されており、常に進化していることが人気の秘密といえる。
世界16のエリアでガンプラの作品コンテストを開催
発売当時、単一色でぎこちない動きだったガンプラは、現在では見違えるほどの配色で華麗な動きも可能になっている。その完成度は世界的に見てもレベルが高く、海外のファンも増えているという。
「何よりもガンダムというコンテンツが人気があり、アニメ、書籍、ゲーム、カードなど多くの商品が40年間も支持いただけたことが大きいです。プラモデルに関していえば、同じモビルスーツであっても、前回発売のモデルからより色再現を高め、可動箇所や可動領域等も見直し、進化を続けてきたことが、お客様がつくりたくなる人気の要因ですね。プラモデルとして完成度を追求し続けることで、国内外を問わず、多くの方々に喜んでいただけていると思っています」(同)
ガンプラ販売数の海外比率は15年は約30%だったものの、16年には40%、現在では50%にもなっている。特に、アジアを中心とした国からの人気が高く、国内でのインバウンド需要も多いという。
「11年からスタートしたガンプラの作品コンテスト『GBWC(GUNPLA BUILDERS WORLD CUP)』は、世界16のエリアで開催しています。一般からの投票による審査もあり、参加型のコンテストとなっていて、そのつくり込みの緻密さにガンプラファンではない方からの注目も高い。そうしたことも、ガンプラ人気の一因になっていると考えられます」(同)
また、香港、台湾、韓国、中国、アメリカ、フランスには、公式のガンダム情報ポータルサイト「ガンダムインフォ」による現地語での無料配信を行い、ガンプラだけを販売する直営店は、韓国に12店舗、台湾に1店舗、中国・上海に1店舗を構える。こうした試みによって、着実に海外ファンを獲得しているのだ。
「プラモデル人気は、アジアでは『ガンダムSEED』や『ガンダム00(ダブルオー)』が高く、国内では18年の『発表!全ガンダム大投票』(NHK BSプレミアム)でモビルスーツ人気1位になった『ν(ニュー)ガンダム』が高いです。また、『ファーストガンダム』の人気も根強いですね」(同)
進化し続けるガンプラの未来
さまざまな進化を遂げ、全世界にファンを持つようになったガンプラ。今後の展望について、筒井氏はこう語る。
「まずは、ガンダムの新作アニメなどが、プラモデルをつくったことがない人へのきっかけとなることが最重要です。そのため、つくることが楽しそうと思える商品づくりに注力しています。
お客様に驚いていただけるような色やギミックの進化はもちろん、モビルスーツが本物であるとしたらどんな構造かを常に考え続け、ガンプラとしてのリアルさも追求していきたいです。そして、日本だけでなく、北米、中国本土でもプラモデル体験会やガンダムベース(ガンプラ直営店)、GBWCなどの実際に『見る』『つくる』『購入できる』場を提供して、さらなる販路拡大を目指します」(同)
ハリウッドでの実写映画化を控え、20年12月には横浜・山下ふ頭に実物大の動くガンダムを展示する「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」がオープン、21年秋に開催される「ドバイ国際博覧会」の日本館アンバサダーにも任命されているガンダム。
日本が誇るカルチャーのひとつとして、令和の時代も燃え上がり続けそうだ。