日本のゲーム業界を支えてきたセガサミーホールディングスに危険信号が灯り始めている。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、グループ会社が運営するゲームセンターなど施設運営事業の業績が悪化。昨年11月6日には、正社員と契約社員を対象に650人の希望退職を募る事態に陥った。コロナ禍の拡大で、政府は今月7日にも緊急事態宣言を発出する見込みで、いわゆる遊技機業界は引き続き苦境が続くとみられる。
そんな中、同社が社運をかけている事業が「スマートフォンゲーム」だ。だが、昨年末に満を持してリリースしたiOS/Android向けロールプレイングゲーム(RPG)アプリ『サクラ革命 ~華咲く乙女たち~』(開発・運営ディライトワークス)の売り上げが芳しくない。
『サクラ革命』の不調に関しては昨年12月20日、チャンネル登録者27万人を誇る有名ゲームレビュアーのナカイド氏が以下のような解説をYouTube上にアップしていた。ナカイド氏の許可を得た上で以下、引用する。
ナカイド氏は動画で、同ゲームのキャラクターに対し「ブス」などと理不尽な批判の声があがっていることを上げ、「それは言い過ぎ」などと反論。そのうえで初動の売上が伸び悩んだ理由に関して、ゲームシステムの出来や、インターネット上で批判を受けていたキャラクターデザインの是非などの観点から詳細に分析、考察している。
また、この動画はセガサミーホールディングス関係者にも認知され、話題になっていた。当サイトでは、ナカイド氏の動画の内容を踏まえて、改めて同タイトルの売上の推移を確認し、開発費の規模や製作現場の実態など、『サクラ革命』不振の原因を関係者に聞いた。
ゲーム関連株(ゲーム、ソーシャルゲーム)専門の情報分析サイト「Game₋i」によると、同タイトルの12月期の売り上げ予測額は7370万円、スマートフォンゲームアプリ売上平均順位は215位だった。有名タイトルは一般的にリリース開始月に売上数億円、平均順位50位内につけなければ失敗という。複数のゲーム業界関係者によると同タイトルの開発費は30億円超えるといわれていて、「大失敗」の噂は絶えない。いったい何が起こったのだろう。
大規模な作風改変で古参ファンを切り捨て
「革命」はリリースが発表された当初から、すでに暗雲が立ち込めていたという。ゲーム情報サイト編集者は次のように語る。
「サクラ大戦シリーズは『スチームパンク風な大正時代』を描くという一貫したテーマがありました。作中では架空の大正30年まで事細かな事件や戦争の設定があります。そのため、これまでのシリーズでは第1作目のヒロイン真宮寺さくらなど、過去作の登場人物の“その後”も丁寧に描かれ続けてきました。シリーズに通底する壮大な世界観が第一作の発売から20数年、ファンの心をつかみ続けてきた最大の理由です。
ところが『革命』の舞台は2011年、作中の年号では『大正100年』です。これまでの作品のはるか未来の世界が描かれることになったのです。当然、これまでのメーンキャラクターはまったく登場しないか、存在がほのめかされていても『空気』のような扱いになっている。歴史的な連続性が全くなく、単にガワだけサクラ大戦シリーズを名乗っているようにしか見えないありさまです。しかも、スチームパンク作品として重要な役割を担ってきた『霊子甲冑』という蒸気で動く戦闘メカも大きく改変されました。
どうやらヒロインが乗り込む形式のメカだと、キャラの顔が見えなくなってしまうという開発側の理由で、顔だけ出して胴体、手足だけが巨大な機械というスタイルに変わりました。大雑把な表現ですが、ガンダムの顔のパーツだけ、パイロットのキャラクターの顔になっていると考えてもらえればイメージしやすいと思います。こうした意味不明な作風の改変に、古参のファンたちが憤り、初日からインターネット上で炎上したのです」
開発を手掛ける「ディライトワークス」とは?
20数年続く伝統的なタイトルとはいえ、より息の長いコンテンツにするために新規ファンの獲得を目指し作風を変えることはあり得る。だが、セガサミーホールディングス関係者は次のように語る。
「完全に上層部の読みが外れたのは否めないと思いますよ。そもそもディライトワークスさんに開発・運営をお願いしたのが正しかったのか……。ディライトさんは国内累計2200万ダウンロードのゲームアプリ『Fate/Grand Order』(略称・FGO、配信・アニプレックス)の開発で名を上げました。同タイトルの月間の売り上げは30~80億円というまさに覇権ゲームメーカーです。
ただ、ゲーム開発者からはあまり良い評判は聞きません。FGOは2014年のリリース時から、『グラフィックがしょぼい』『キャラクターの育成には時間がかかり、かつ課金をしないと困難』『戦略性などが陳腐』などとたびたびゲームシステムの不具合やゲーム内容そのものに対する批判がついてまわっている作品です。またゲームキャラクターを獲得するためのガチャに関して、レアリティーの高いカードを引き当てる確率が極めて低いことでも知られます。
例えば、某美少女RPGゲームでは、ガチャが外れても一定の金額を課金すれば自分の狙っているキャラクターが手に入る仕様になっています。ところがFGOは青天井です。何十万円つぎ込んでも、出ないときは出ません。そうした露骨な集金を問題視する声が、消費者庁や東京都などにも多く寄せられています。
それでもファンが離れず、FGOが驚異的な売り上げを誇り続けているのは、原作者である奈須きのこ氏と武内崇氏が手掛けた『Fate』というブランドがあるからと言われています。
『サクラ革命』の開発・運営はディライトさんが2度にわたってうちに頼み込んだらしいですね。最初は断ったということです。不安はありながらも、近年の業績不振もあり、FGOであれだけの成功を収めたメーカーさんに起死回生の望みを託そうとした上層部の気持ちもわからないではありません。
それだけ頼み込んで受注し、仕上げてきた作品があれほど世間で問題視されていたFGOとほぼ同様、キャラの育成が困難で、ガチャも厳しいゲームシステムだったことには驚愕しました。もう少し違うゲームシステムの作品ができると思っていたのですが……。
また、もともと『サクラ大戦』シリーズはアドベンチャーゲームでした。作中の選択肢でストーリーが変わるゲームシステムで、登場人物の感情の機微もしっかり描かれていて、深みのある作品でした。『革命』の選択肢はどちらを選んでも結果は同じです。完全なRPGにしてしまったためキャラクターを強くして、強い敵を倒すのみです。私も『サクラ大戦』にはまってセガに入社した一人なのでとても残念です」
「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク」好調
一方、セガがサイバーエージェント関連会社のColorfulPaletteとCraftEggと組み、昨年9月にリリースしたiOS/Android向けリズムゲームアプリ『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク』(略称・プロセカ)はおおむね好調だ。世界的な人気を持つボーカロイドの初音ミクらを起用したことに加え、もともとリズムゲーム開発に定評のあった両社と組んだことで、ボカロファンをはじめ、多くの新規ユーザーを獲得できたとみられている。「Game₋i」によると昨年10月の売上予測は6.24億円(売上平均順位39.2位)、11月が同6.19憶円(同43.8位)、12月は同7.22憶円(同45.2位)だった。
「現在、スマホゲーム界隈で新規タイトルの参入はかなり厳しい情勢です。中国産の高品質なタイトルも多数リリースされています。それらに勝っていくには、プレイステーションなどの据え置き機ソフト並みのクオリティーが必要です。それができなければ早晩、日本のスマホゲーム市場は中国メーカーに占められると思います。伝統的な人気コンテンツにおんぶにだっこで、安直なゲームを作って楽に稼ぐのは、今後は難しいでしょうね。セガさんには『プロセカ』のような気合いの入ったゲームを作り、日本のゲーム業界を盛り立てていってほしいと思います」(前出ゲーム情報サイト編集者)
コロナ禍でも安定した収益が望めると注目のスマホゲーム業界だが、前途は多難なようだ。
(文=編集部)
【2021年1月8日追記・更新履歴】
本稿は、ゲームレビュアーのナカイド氏が2020年12月20日にYouTube上にアップした解説動画をきっかけに、当サイトが業界関係者に改めて取材をし、当該関係者の見解や意見をまとめたものでしたが、一部に配慮が欠ける表現がありました。ナカイド氏に対してお詫びし、ナカイド氏の承諾を得た上で当該動画を引用し、一部内容を追記・更新しました。