ENEOS前会長・性加害、社内で箝口令か…本当の退任理由を隠蔽、信義問われる

「重病でも、そういうことに関してはお元気だったということなのでしょうか。これでは隠蔽と言われても仕方がないと思いますよ」

　ある石油元売り大手幹部はそう憤る。その怒りは、石油元売り最大手のENEOS（エネオス）ホールディングス（HD）前会長・CEOの杉森務氏の“本当の辞任理由”が明らかにされたことに端を発している。デイリー新潮は21日、記事『ENEOS会長、電撃辞任の理由は”壮絶”性加害だった 「胸を触り、キスを強要」被害女性は骨折』を公開。全国紙やキー局各社がエネオスHDに同報道の事実確認に走り、同社が事実を認めたのだ。

当初の説明は「一身上の都合」

　新潮の報道によると、杉森氏は7月1日夜、出張先の那覇市で地元の石油販売事業者幹部らと高級クラブを訪問。酒に酔ってホステスの女性のドレスの中に手を入れて胸を触り、強引に首を絞めるような格好でキスを強要。ドレスを無理やり脱がせ、肋骨を折るなど全治2週間のけがを負わせた。被害女性はPTSDのような症状に悩まされ、仕事も満足にできない状態だという。

　7月中旬に女性側の弁護士から被害の訴えを受けてエネオスHDは事態を認識し、聞き取りを進めた結果、杉森氏が事実を認めた。斉藤猛社長が辞任勧告をする形で、杉森氏は退任することになった。

　しかしエネオスHDは8月12日、『代表取締役の異動（辞任）に関するお知らせ』で杉森氏の辞任理由を以下のように説明した。

「一身上の都合による」

かん口令？幹部社員すら知らなかった“真相”

　それと同時に、杉森氏が務めていた石油連盟会長や経団連・審議員会の副議長などの役職も同日付で辞任した。石油元売り業界では“剛腕”な経営手法で知られる杉本氏の“前触れのない辞任”について、エネオスグループ各社に衝撃が走ったという。

　ある製油所幹部は当時について「正直、驚きました。突然でしたから。会長は辞任直前まで業界ニュースにもよく登場し、自分からお辞めになる雰囲気はなかったので。“一身上の都合について”は“詳しいことは聞くな”“プライバシーにかかわる問題だから”と本社上層部から言われたので、何も聞きませんでした。つまり知らない方が良い話なのだと。かん口令だな、と思いました」と振り返る。

　別のエネオス関連会社社員も「会長辞任は“プライバシーにかかわる話”で“一身上の都合”だからと上長から説明を受けました。社内ではほどなくして、会長重病説が流れ始めました。病気や健康についての話題は、会長であってもプライバシーを尊重しなければなりませんから。どこから出てきた話なのかはわかりませんが、そうした噂が広がっていたのは事実です」と話し、「今になって“プライバシー”は会長のことを指すのではなく、被害を受けた女性のことを指していたのだとわかりました」と苦笑いした。

　別の女性社員は「新潮の記事を読んで、気持ちが悪くて吐き気がしました。女性に怪我までさせているし、これって犯罪じゃないですか。仮に重病説が本当であったとしても許されることではないと思います」と不快感を示した。

　“伏せられた真相”に関する憶測は業界全体にも広がっていた。

＜「長年の飲酒と喫煙、それが災いしたということだろう」

非公式に伝わってくるのは深刻な体調不良。ステージ4の膵臓がんだという。急きょ石連の会長代行に就いた出光興産社長・木藤俊一に告げられた理由はそれである＞（原文ママ）

　月刊誌「選択」（選択出版）9月号の記事『ENEOS「杉森」はなぜ辞めた　重病説の裏に漂う醜聞の匂い』はそう記す。しかし同記事が指摘するように、内外に流れていた重病説の裏にある真相に、気付いていた人間がいなかったわけではない。少なくとも7月中旬の段階で斉藤社長が杉森氏に聞き取り調査を行い、辞任勧告をしていたのであれば、取締役会のメンバーやその周囲で真相を知る者は確実にいたことだろう。

「被害者の心理的負担を考慮」？

　朝日新聞が21日に報じた記事『エネオス元会長、突然辞任の理由は性暴力　沖縄の高級クラブで』によると、エネオス側は辞任理由を明かさなかったことについて「報道されることによる被害者の心理的負担を考慮し、公表する予定はなかった」と回答したという。

　冒頭の石油元売り大手幹部は「被害者の心理的負担を考慮するのはわかりますが、結局、想定される中でも最悪の形で大々的に報道されましたよね。自社の従業員や消費者、同業者に対する信義や仁義をどう考えているのか。今回の顛末を疑問に思う人間は少なからずいると思いますよ」と語った。

（文＝Business Journal編集部）