スーパーマーケットやコンビニエンスストアに導入されており、客自身が商品のバーコードをスキャンし会計作業まで行うセルフレジ。人手不足解消や人件費節約を期待し、導入した店舗も多い。
一般社団法人・全国スーパーマーケット協会の発表によると、2021年のセルフレジの設置率は23.5%とおおよそ4店舗に1店舗がセルフレジを導入している状況。また3月15日にLINEリサーチが日本全国の18~59歳を対象にした調査では、セルフレジの利用率は全体で78%と極めて高い数字を記録していた。
設置率、利用率ともに増加傾向にあるセルフレジ。しかし、最近では導入したにもかかわらず、利用を停止している店も相次いでいる。8月にTwitter上に投稿された、とある店舗内で撮影された「~お知らせ~ 従業員の人員不足によりしばらくの間セルフレジは封鎖致します。ご迷惑をおかけしますが有人レジをご利用ください」と書かれたPOPの写真が話題になり、以下のような声が寄せられていた。
<有人レジを封鎖すべきじゃないの?>
<人手不足解消のために導入したのになぜ封鎖してしまうのか>
<セルフレジを見張る人がいないと万引きし放題>
<上手く操作できない人もいるから結局そばにいないとすぐにパンクしてしまう>
小売業界の現場でセルフレジはどう運用されているのだろうか。今回は流通ジャーナリストの西川立一氏にセルフレジの実情について詳しく聞いた。
不慣れなお客のサポートや万引き対策に人員が不可欠
まず、現在設置されているセルフレジの種類にはどのようなものがあるのか。
「一口にセルフレジといっても、大まかに2種類あります。ひとつは従来どおり店員が商品バーコードのスキャンを行い、会計のみお客が専用機械で行うセミセルフレジ。もうひとつが商品のスキャンから会計まですべてお客が行う完全セルフレジです。ちなみに現状だとセミセルフレジの設置数のほうが多くなっています。
というのも、完全セルフレジは、セミセルフレジより会計を終えるまで、時間がかかり、不慣れなお客のためにガイド役として人員が必要なこともあり、完全セルフレジは導入しづらいといわれていたんです。そのため、お客が自分で商品をスキャンする手間がないということで、セミセルフレジの普及のほうが早く進みました。ただ現在は、非接触需要が伸びたことやセルフレジの使い方にみなさんが慣れてきたということもあって、完全セルフレジを導入する店舗も増えてきていますね」(西川氏)
店側がセルフレジを導入する目的について西川氏はこう続ける。
「第一の目的はやはり人手不足の解消でしょう。現在、スーパーマーケットをはじめとする小売店では、深刻な人手不足が問題となっていますので、機械の手を借りて少しでも人員不足をカバーすることが急務とされています。そして、自動化によって人件費コストを削減し、広告やマーケティングなど人間にしかできない仕事にスタッフの労働時間を充てようとしているんです。またお客のレジ待ちを解消するという目的も大きいでしょう」(同)
やはり主目的は人手不足解消や人件費節約のようだ。しかし冒頭のツイートのように、人手が足りずにセルフレジを稼働できないという事態が起こってしまう店舗もある。人手不足を解決するために導入したにもかかわらず、なぜそのような状況に陥ってしまうのだろうか。
「慣れてきたお客が増えたとはいえ、やはりセルフレジの操作に不慣れなお客はまだまだいるので、そういった人々をサポートするために人員は必要なんです。導入当初は、セルフレジ4台につき1人の割合で人員が必要と言われていました。特に70、80代のお客はデジタル機器の扱いに慣れていない割合が高いので、使い方をサポートしなくてはいけません。また万引きなどの不正防止のために、監視役としてセルフレジ付近に店員を配置しているという意味合いもあるでしょう」(同)
また、そもそもセルフレジを起動できる人材が店舗内で限られているというケースもある。セルフレジを起動させるには専門的な知識や技術が必要であり、店員であれば誰でも簡単にセルフレジを管理できるわけではなく、起動させることも難しいらしい。そういった背景から、仮にその日の出勤シフトでセルフレジを起動できる店員が1人しかいない予定で、その1人が体調不良などで欠勤してしまうと、セルフレジを封鎖せざるをえないこともあるようだ。専門性の高いことなので、ほかの店員にセルフレジのノウハウをレクチャーしようにも、習得してもらうまでの時間と労力が確保できないことも考えられるだろう。
セルフレジ増加は続き、ゆくゆくは無人化することに?
このような本末転倒状態が発生してしまうようだと、セルフレジ自体の普及率が頭打ちとなり、次第に廃れていくという可能性も少なからずありそうだが――。
「いえ、セルフレジは今後も普及率を高め、どんどん浸透していくでしょう。現状はセルフレジを封鎖する店があったとしても、長期的に見ればセルフレジ導入のメリットのほうが大きいからです。有人レジは1台あたりに店員が1人必要になりますが、セルフレジは数台を店員1人で管理できるわけです。確かに完全無人にするのは難しいかもしれませんが、人手不足解消の大きな助けになるのはいわずもがなです。
お客のなかには、『セルフレジを使うのはめんどくさい』『買い物の量が多くなったときセルフレジで会計するのは手間』と不満を述べる方もいるでしょうが、店側の事情を考えるとセルフレジの設置数は多くなっていくはずです」(同)
では今後、スーパーやコンビニはセルフレジをどう導入していくべきなのか。
「ユニクロやGUでは、完全無人のセルフレジを実現していますが、それを可能にしたのが『RFID』と呼ばれるタグの自動認識システム。このタグが全商品に付いているため、会計コーナーのボックスに入れるだけで自動的に精算してくれるという仕組みになっています。ボックス内に商品を入れるとすぐに合計金額を自動で算出してくれるため、お客側の立場で考えても非常に楽なのです。
とはいえ、RFIDのような技術は店側にも客側にも非常に便利なシステムではありますが、タグ一つひとつがまだまだ高価。ですから現状、アパレル業界のように商品の単価が比較的高い業態でしか導入できていないんです。ただスーパーやコンビニにとっては、無人レジ化できたほうが効率的なのは間違いないため、タグのコストが下がれば積極的に導入する企業は増えていきそうですね」(同)
RFIDのようなシステムの利便性の高さはユニクロやGUで実証済みではあるものの、完全無人化を目指すのであれば、防犯もより強固なものにする必要性が出てきそうだ。
「確かに防犯面は大きな課題ですが、小売業界はお客との信頼関係で成り立っている業界という側面もあるため、極端な防犯システムは導入しづらいのです。過度に対策しすぎると、かえってお客に警戒心を抱かせてしまい店舗としての信頼を損なうことになりかねないので、どんな防犯対策を講じるかがセルフレジを完全無人化できるかどうかの分水嶺になるでしょう」(同)
現在は有人レジ時代からセルフレジ時代への移り変わりの真っ最中。こういった過渡期では、人員不足でセルフレジ封鎖といった本末転倒なことが起こるだろうが、そういった課題や矛盾が少しずつ解消されていき、いずれは本格的なセルフレジ時代に突入するのではないだろうか。
(取材・文=文月/A4studio)