ネット上で「楽天でんきが市場連動型プランに変更されて、真冬の電気代が跳ね上がるおそれが」「楽天でんき利用者は乗り換えたほうが良さそう」などと騒ぎになっている。しかし、こうした情報にはやや誤解も含まれているようだ。
電気料金は4つの項目を積み上げたもの
まず、一般的な電気料金は、次のように計算されて請求されている。
・基本料金(最低料金)+従量料金(電力量料金)±燃料費調整額+再生可能エネルギー発電促進賦課金
市場連動型プランとは、日本卸電力取引所(JEPX)の価格に連動して電気料金の単価が決まるプランのことだ。エネルギーのデータ事業とプラットフォーム事業を行うENECHANGEの広報マネージャー、中田都季子氏はこう説明する。
「市場連動型プランというと通常は、料金プランの従量料金部分が市場連動型になっているものを指す。代表的な会社として、ハルエネでんき、自然電力などがある。すなわち、実際に使用した電気のところが市場連動になっているプランのこと」
「楽天でんき」を提供している楽天エナジーは、燃料費調整単価を、燃料価格に連動した単価から、JEPXの電力取引価格に連動した市場価格調整単価に11月1日から変更すると発表した。つまり、楽天でんきの燃料費調整額には、これまで燃料価格が反映されていたが、今後はJEPXの市場価格が反映される。
楽天でんきもそうだが、新電力の多くは自社で発電施設を持っておらず、発電施設を持っていたとしても、契約者すべての電力を自社でまかなえるとは限らない。そのため、電力をJEPXで調達している。楽天グループの同社は、楽天ポイントが貯まりやすく、ポイントで電気代の支払いも楽天市場での買い物もできるということでユーザーを増やしてきた。
「一般的な電気料金プランは、契約したアンペア数に応じた基本料金と3段階の電力量料金で構成されている。楽天でんきは、基本料金ゼロ円、電力量料金が一律と、シンプルでわかりやすい設定が特徴」(中田氏)
同社は11月1日以降も基本料金ゼロ円は続けるとしている。
燃料費調整額の上限撤廃、市場連動とは
日本は火力発電が多いため、燃料(原油、LNG、石炭)の価格によって発電コストが大きく変わる。燃料価格の変動を電気代に反映させる仕組みとして「燃料費調整制度」が設けられている。燃料価格が上がれば燃料費調整額も引き上げられ、燃料価格が下がれば燃料費調整額も引き下げられる。ただ、いくらでも電気料金に反映できるわけではなく、上限が定められている場合がある。これにより、燃料価格がどれだけ上がっても、消費者への電気料金請求は抑えられているわけだ。
しかし、新型コロナからの需要回復、ロシアのウクライナ侵攻、急激な円安など、それらの影響で燃料価格は高騰し、10月時点では大手電力10社すべてが上限に到達する状況だ。上限を超えて燃料価格が上昇しても電気料金へは転嫁できず、超過分は電力会社が負担する。
実は、11月1日から燃料費調整額の上限を撤廃する新電力が増えている。auでんき、ENEOSでんき、ソフトバンクでんき、J:COM電力、大阪ガスなどだ。上限を撤廃するというのは、それだけ新電力の経営が苦しくなっているということである。楽天でんきの場合、上限撤廃だけでは赤字を吸収できないので、さらに市場連動型にするということだろう。
なお、新電力はすべて小売自由化以降にできた電力プランなので自由料金である。電力会社の判断だけで料金変更できることになっている。
今冬の電気料金は高騰するのか
市場連動型プランは、電力の市場価格が安い状態のときに電気を使うことができれば、電気料金を抑えることができる。しかし、現在のように電力の市場価格が高騰しているときは電気料金も上がる。
2021年1月、強烈な寒波による電力需要の急増、天候不順による太陽光発電の発電量低下、LNG(液化天然ガス)の在庫減少により、JEPXの取引価格が異例の高騰を続けた。このとき、市場連動型プランの電気料金は10倍に跳ね上がるかもしれないという局面があった。
楽天でんきの場合、今回は燃料費調整額の変更なので、21年冬のような極端な料金上昇は考えにくい。その理由のひとつとして原油価格の動きがある。
実は、ニューヨーク原油価格のピークは、6月5日の1バレル120ドルだった。しかし、9月末は、81ドルと33%も下がっている。デフレが続いていた2018年半ばとさほど変わらないところまで下がってきている。原油価格の下落は、LNGなどのエネルギー価格に連動するので、電気、ガス、ガソリンなどあらゆるエネルギー価格が下落していく。
また、岸田政権では新たな総合経済対策の柱として、電気料金の負担を和らげる新たな支援制度を年明け早々にも導入すると決めている。状況を的確に判断して、電力会社の変更を柔軟に検討したらいいだろう。
(文=横山渉/ジャーナリスト)