10月28日、ニュースサイト「現代ビジネス」に掲載された、コンビニ業界最大手のセブン-イレブンの客数が1割以上も減少したという記事が大きな話題を呼んだ。10月17日にセブン&アイ・ホールディングスが発表した情報によると、セブン-イレブンの今年上半期の既存店売上高はコロナ前を上回ったが、なんと顧客数は11.0%減と1割以上減っているというのだ。同記事の執筆者である経済評論家で百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏によると、コロナ前の2019年上半期と比較すると売上高は1.1%増と回復しているが、それは客単価が13.5%も増加したからだという。
この情報から、経済的に余裕がある層はセブンで以前よりお金を落とすようになったが、経済的に余裕がない層はセブンを使わなくなってきているという推論が立てられる。
コンビニエンスストアの業績もようやくコロナ禍前の水準に戻りつつあるものの、一億総中流社会はとうの昔で、日本人の階層化はさらに進んでしまったのだろうか。それとも単純に、国内最大手のコンビニチェーンであるセブンの求心力が弱まってきているのだろうか。そこで今回は、セブン-イレブンの顧客数が減少している要因やその実態について、前出の鈴木氏に詳しく話を聞いた。
日本人の階層化、減少した1割は低所得層?
「背景要因は3つあると考えています。1つ目にコロナ禍によって収入が減少した人口が増え、低所得層が増加してきているという社会環境があること。2つ目はさまざまな形で経済活動が回復していくなかで、アフターコロナの需要が増える一方、供給が減ると価格が上昇していく傾向があるということ。3つ目に昨今のウクライナ情勢や円安といった事情が重なってさらにインフレが進み、低所得者層を中心に消費者の財布の紐が固くなったことが挙げられます。
今回、セブンで減少した客層はどういった人々なのかを率直にいうと、生活が苦しい状況になりやすい低所得者層です。同じような品揃えでも、ドラッグストアやスーパーマーケットまで足を運べばコンビニよりも価格が安い商品があるため、そちらに流れていった人がいるということでしょう」(鈴木氏)
では、逆にセブンを利用し続ける客層はどういった人々なのだろうか。
「まず、いわゆる中流層といわれている人々です。かつて日本は一億総中流といわれていたのですが、時代が移り変わり中流層の人口も減少しつつあります。とはいえ、日本でもっとも人口が多いのは今でも中流層のため、そういった人々が利用しています。もちろんコンビニは便利ですので、上流層の人々も変わらず利用しているでしょう。一方、低所得者のなかにも惰性層と呼ばれている人々もいて、価格の上昇などに無頓着な人は所得が低くてもコンビニを利用し続けています。
また視点を変えると、買い物難民となった高齢者などは家の近くでしか買い物ができず、日用品や食品などの大半はコンビニで買っているという層もけっこういるようです。さらに地方となると、近場にあるお店はコンビニしかないというケースがあり、多少価格が高くともコンビニを利用せざるを得ないという人もいるんです」(同)
中流層の客単価を上げることで売上を維持
顧客数は減少してしまっているが、一方で客単価が13.5%も増加しているのはなぜだろうか。
「セブンだけはなくコンビニ業界全体にいえることですが、一番利用してくれるであろう中流層の人々が買いたくなる商品開発に力を入れるというのが、ここ10年ほどコンビニ大手各社がやってきた対策なんです。
例えばセブンだと、『セブンプレミアム』というプライベートブランドに力を入れていますが、そのなかでも高価格帯の『セブンプレミアムゴールド』というシリーズにかなり重きを置いている印象で、中流層の人々のおうちでのプチ贅沢需要にハマっているのでしょう。客数が減った分、中流層の人々により高い商品の購入を促すことで売上を補っているという構図になっているのです」(同)
さらに、他のコンビニでも似通った状況にあるという。
「セブンは顧客が11%減少しましたが、ファミリーマートも同程度減少しており、ローソンに関しては同時期に16%も減少していますが、セブン同様に客単価を上げる施策を打っている印象です。
一例ですが、ファミリーマートではファミマソックスが人気商品となっていてアパレル商品の売上が増加し、客単価増に貢献しているでしょう。ローソンは提携している無印良品の商品が売り場に並び、客単価増に一役買っているのではないでしょうか。基本的には3社とも客単価を上げる方向の対策をとっているため、中流層の人々への購入促進につながる商品を開発し、それがある程度、上昇気流に乗ったため売上が回復してきたように思います」(同)
大手3社とも中流層の顧客を離さず、なおかつ高価格帯の商品を買ってもらうことで売上高を維持しているということか。ではセブンの勢力が弱まってきたという事実は特にないのだろうか。
「コンビニの限界論というのは以前からいわれていましたが、もともと限界といわれていた所以は店舗数の多さで、もう頭打ちになっているということです。今や全国津々浦々までさまざまなコンビニチェーン店が展開されており、これ以上店舗数を増やすのは限界があるのではないかという議論がされていました。店舗数が頭打ちとなり顧客数が減少していくとなると、小売り全体のなかのセブンの勢力は弱まっていくのではという予想もあったのは事実です。しかし今回の決算の発表を見る限り、客単価を増やすことによってなんとか勢力を維持できているので、直近でセブンが凋落していくということはなさそうですね」(同)
データを重視するセブン-イレブンの未来予想
では今後のセブンの経営方針はどう変化していくのか。
「基本的には、中流層の客単価を上げていくという今の施策でしばらく続けていくのではないかと思います。ですが、このまま円安が続いて日本人の生活がさらに厳しくなる未来が訪れれば、セブンも経営方針を変えざるを得なくなっていくかもしれません。セブンはデータを重視する企業体質のため、その時代の数字に基づいて経営方針を変えていき、より売上の促進を図った対策をしていくでしょう」(同)
客数が減少しながらも客単価を上げることで売上を維持しているセブン。日本の社会情勢がどのように変化していくのか不透明な部分も多いが、セブンはコンビニ業界の王者であり続けるために、その時代時代に合わせた施策を打ち出していくのだろう。
(文=A4studio)